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発がん性物質を含んだ泡消火剤、普天間基地から大量に

地元による立ち入り調査に、日米地位協定の壁

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 沖縄の米軍基地から泡消火剤が流出し、県民の健康を脅かす大問題となっている。4月10日午後4時ごろ、米軍普天間飛行場の格納庫で消火システムが作動し、発がん性が指摘される有機フッ素化合物の一種PFOSを含む泡消火剤が放出された。住宅街や排水路等にも大量の泡消火剤が漏出したのである。

 翌11日の地元紙は一面トップの大きな見出しで「普天間基地外に泡消火剤」と報じた。ネットには、風に流されて住宅街や排水路周辺の空中を漂う数多くの泡の動画がいくつもアップされた。15日付の地元紙によれば、漏出した泡消火剤は総量で約23万リットル(ドラム缶1135本)という膨大なもので、そのうち14万リットル超が基地外に流出したという。

 米軍基地はこれまでも、有害物質で河川、湧水、地下水を汚染しつづけてきた。45万の県民が日々使用する水道水には高い濃度の有機フッ素化合物が検出されている。新型コロナ禍で人が集まることも難しい中、市民は有機フッ素化合物汚染について学ぶ小さな集まりを数多く重ね、また県や国に真剣な取り組みを求める6000筆以上の署名を集める活動を展開してきた。そうした中、汚染源の米軍のとんでもない無責任さを白日の下にさらす事態が発生したのである。

何度も繰り返される漏出

 この漏出事故に際し米軍関係者は、泡消火剤の回収作業を地元宜野湾市の消防任せにし、基地司令官のデイビッド・スティール大佐を筆頭に事態をただ傍観するだけであった。無責任極まりない。発がん性が指摘されるPFOS含有の泡消火剤の米軍基地外への流出は昨年12月に続く事故であり、米軍起因の流出は2007年以降、少なくとも今回を含め7回目である。軍紀が弛緩しきっているとしか言いようがない。

宜野湾市街地に囲まれた普天間飛行場=2019年12月9日、堀英治撮影
 PFOSは、2009年の「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」締約国会議で原則としてその使用が禁止されている。10年以上たった今もなぜPFOSを保有しているのか、県民とすれば全く納得がいかない。日本政府は、米軍がPFOSを含まない泡消火剤に切り替えを進めていると沖縄県に説明してきたが、これはその場しのぎの言い逃れに過ぎなかったことが明らかになった。

 河野太郎防衛相は、4月14日の記者会見で、在日米軍は有機フッ素化合物を含まない泡消火剤への切り替えを検討しているが、なかなか代替消火剤がなく、まだ少し時間がかかるかもしれない、と苦し紛れの説明を行ったのである。

11日後にようやく立ち入り調査

 かつてないほど大量の泡消火剤の基地外への漏出という事態に、県と地元の宜野湾市は米軍基地への立ち入り調査を申し入れ、事故発生から11日目の4月21日にようやく実現した。基地で起きた環境事故を県側が環境補足協定に基づき調査するのは、これが初めてである。

 立ち入りでは、漏出現場を調べ、排水路の3地点から取水したが、県が求める土壌調査は行われなかった。漏出事故があった4月10日以降、同飛行場周辺では立ち入り調査当日も含め雨天が続いた。11日後にもなっての立ち入り調査にどこまで実効性があるのか疑問である。

泡消火剤の漏出を奉ずる琉球新報紙=2020年4月11日付

 沖縄におけるPFOS汚染問題には、長い背景と経緯がある。深刻だったのは、嘉手納基地の周辺だ。

 45万の沖縄県民が給水を受けている北谷浄水場の水源の比謝川などが有機フッ素化合物PFOSで汚染されていることが明らかになり、汚染源は嘉手納基地に違いないと推定されると沖縄県企業局が発表したのは、今から4年前の2016年1月19日のことであった。嘉手納基地内を通って比謝川に注ぐ大工廻川で同物質が恒常的に高濃度で検出されること、周囲にはPFOSを使用する工場などが見当たらないことなどから、県企業局は沖縄防衛局を通じ、米軍嘉手納基地への立ち入り調査を求めてきた。だが、今日に至るまで調査は実現していない。

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