下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授
カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
新型コロナウイルスの危険性に、政治・行政・世論がこぞって過剰反応をしてないか
抗体検査が注目されている。結果次第で経済活動を再開させる鍵になるのでは、との期待があるからだ。PCR検査との大きな違いは、すでに感染し無症状・軽症ですんだ者を発見できる点だ。米国のほか、オランダなどが積極推進の立場だが、フランスは慎重姿勢で、その理由は抗体で本当に感染しないかなど不明点が多く、検査の信頼性も高くないからだという。実際その精度は、PCR検査より劣るともいう(後で論じる;またPCR検査の精度については、本欄拙稿『続・新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の数字を読む』)。WHOも「現時点では、感染者の発見や治療が優先」とした(NHKニュース7、4月21日他)。本当のところ、どうなのだろう。
今、米国の各地で、無症状者を幅広く無差別に(あるいは医療関係者や特定の職場に絞って)抗体検査する動きがある(NYT、4月19日)。スタンフォード大が近隣のシリコンバレーで無症状3300人を検査したところ、抗体の検出率が2.5〜4.2%と推定された(ABCニュース、4月17日)。またロサンゼルス郡と南カリフォルニア大のデータでも、地元住民(無症状者)の2.8〜5.6%に抗体が見られた(ABCニュース、4月20日;LAタイムス、4月21日)。これまで確認されてきた感染者の28〜55倍に上る数字だ。ニューヨーク州でも1日2000件の規模で抗体検査が始まり、希望者が殺到している(日経、4月22日)。
筆者は以前に「パンデミックの全体像を把握するため、バイアス無しのサンプリング検査を」と提案した(本欄拙稿『新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の数字を読む』)。PCR検査を念頭に置いていたわけだが、抗体検査ができるならその方が無論よい。そうした積極的な疫学検査によって、過去も含めた感染の全体像が掴める。血液一滴で家庭でも検査が可能、という利点もあるという。
日本でも、本当は街中にたくさんの隠れ感染者がいるのではないか? 有名人が次々に感染したり亡くなったりしていることとも、符合する(ただそれ自体、別の問題をはらむことを後で指摘する)。ではこの新事実をどう受け止めるか。
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