新型コロナウイルスの危険性に、政治・行政・世論がこぞって過剰反応をしてないか
2020年04月28日
抗体検査が注目されている。結果次第で経済活動を再開させる鍵になるのでは、との期待があるからだ。PCR検査との大きな違いは、すでに感染し無症状・軽症ですんだ者を発見できる点だ。米国のほか、オランダなどが積極推進の立場だが、フランスは慎重姿勢で、その理由は抗体で本当に感染しないかなど不明点が多く、検査の信頼性も高くないからだという。実際その精度は、PCR検査より劣るともいう(後で論じる;またPCR検査の精度については、本欄拙稿『続・新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の数字を読む』)。WHOも「現時点では、感染者の発見や治療が優先」とした(NHKニュース7、4月21日他)。本当のところ、どうなのだろう。
今、米国の各地で、無症状者を幅広く無差別に(あるいは医療関係者や特定の職場に絞って)抗体検査する動きがある(NYT、4月19日)。スタンフォード大が近隣のシリコンバレーで無症状3300人を検査したところ、抗体の検出率が2.5〜4.2%と推定された(ABCニュース、4月17日)。またロサンゼルス郡と南カリフォルニア大のデータでも、地元住民(無症状者)の2.8〜5.6%に抗体が見られた(ABCニュース、4月20日;LAタイムス、4月21日)。これまで確認されてきた感染者の28〜55倍に上る数字だ。ニューヨーク州でも1日2000件の規模で抗体検査が始まり、希望者が殺到している(日経、4月22日)。
日本でも、本当は街中にたくさんの隠れ感染者がいるのではないか? 有名人が次々に感染したり亡くなったりしていることとも、符合する(ただそれ自体、別の問題をはらむことを後で指摘する)。ではこの新事実をどう受け止めるか。
「多くの人が知らないうちに感染し、人に移す危険性があることを示す」という受け止め方が、日本のメディアにもあるが、ピント外れだ。というのも、これだけ無症状感染者がいると、致死率(無症状を含めた患者総数の中の死亡率)が大きく下がるからだ(アゴラ、永江一石氏の論考)。先のカリフォルニア州のデータでいうなら、単純に28~55分の1になる(同上)。わかりにくいかも知れないので、日本国内のデータで説明しよう。
東京は感染のホットゾーンと思われているが、表で示した通り(以下4月22日のデータ:NHK特設サイトなど)、PCR検査などでわかった東京都内の感染者の累計数は3307人、死者81人、そこでみかけの致死率は2.4%(=81/3307)となる。実際、WHOなどの当初予想では1~2%だったが、その後にイタリアで12%超え、西欧諸国が軒並み8~10%台に上昇するなどして、世界平均の致死率が5.5%という数字まで出た(東亜日報、4月7日)。ならば上記の東京の致死率2.4%というこの数字も、妥当な「高止まり」のように見えた。
ただ、ここで無症状感染者が街中にざらにいるとすると、真の致死率はここからぐっとさがる。どれぐらい下がるかを知りたい。
そこで街中の(無症状者を含めた)感染率の、おおざっぱな推定値が必要になる。上記カリフォルニアのデータでは、推定感染率2.5~5.6%となっていて、さまざまな状況から、東京の感染状況もほぼこのレベルと想像される(これを正確に知るためにも、以下で提案する無作為抗体検査が必要だ)。そこで今、真の感染率を、幅をとって2%ないし5%としてみよう。すると東京都の人口約1400万人のうち、28万~70万人が抗体保有者(隠れ感染者)ということになる。他方、死者数は変わらないとすれば、真の致死率は2けたも下がって、0.012~0.029%となってしまう(81/280,000~700,000; 表の右側)。
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