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「真の新規感染者数」を推定して効果を検証せよ

「接触8割削減」は目的ではなく手段。対策の効果を判定できる指標が必要だ

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

 緊急事態宣言が延長されそうだ。全国民が新型コロナの新規感染者数に毎日関心を寄せている。それが実数でない、検査を増やせという批判も絶えない。楽観論と悲観論が錯綜するのは、福島原発事故のときと似ている。

マグロやシカの数をコントロールする個体群生態学

拡大専門家会議後の記者会見で説明する尾身茂副座長=2020年5月1日午後、厚生労働省、 姫野直行撮影
 マグロの資源管理やシカの個体群管理が専門の私から見ると、新型コロナの場合に何を見れば事態が好転したとわかるのか、指標が不明確なことが気にかかる(論座の高橋真理子の論考)。接触8割削減は手段であって目的ではない。発表される感染者数が住民全体の「真の感染者数」ではないのはその通りである。それならば、真の感染者数または真の陽性率を推定し、それを減らし続ける策を講じればよい。これは、個体群管理の基本である。検査は誰が陽性かを調べるのが目的でないなら、全数調査や徹底調査は必要ない。検査結果をもとに「真の感染者数を推定する指標」を出す。これを早く実現するように提言したい。

 1人の患者が何人にうつすかという再生産数の初期値「基本再生産数(R0)」が約2.5というが、この値は不確実性もある。それを承知のうえで数理モデルをつくり、対策を打ち出す。感染者数が減ったかどうかで対策の効果を判定し、効果不十分なら対策を強化し、効果があれば、新規感染者を減らし続けられる程度に対策緩和してもよい。これが、個体群生態学でいう「順応的管理」である。

コントロールするには直近の評価指標が必要

 日本のPCR検査は感染者数を知るためでなく、感染者と濃厚接触した人から2次感染者を発見し、さらなる感染を抑えるための手段である。検査者が国民の無作為抽出ではないから、検査陽性率を見ても全貌はわからない。死亡者数は大いに参考になるが、感染してから亡くなるまでだいたい2-3週間かかるとすれば、緊急事態宣言が出た4月7日以後の成果はまだ見えない。

 順応的管理は、できるだけ直近の評価指標が必要で、時間差があるほど対策変更が後手に回る。感染から発症まで5日程度というから、上記検査とは別に感染者と治癒者が陽性となる抗体検査を無作為標本で調べる手はあるかもしれない(論座の塩原俊彦の論考、ただし非感染者でも抗体検査で陽性と判定される「偽陽性」の可能性に注意すべきだ。偽陽性率が5%なら、真の感染率が0でも抗体陽性率は5%と出てしまう)。あるいは年齢、性別、職業、住所等の検査者の頻度分布と住民全体のそれとのずれを補正するなど、検査が無作為でないことを精査すれば、真の感染者数をある程度推定できる可能性もある。そうすれば、数日後には8割抑制等の対策の効果が検証できる。

拡大図1 接触をどれだけ減らすと新規感染者がどのように減っていくかを示すグラフ

 専門家委員会が「オーバーシュート」と呼ぶのは

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筆者

松田裕之

松田裕之(まつだ・ひろゆき) 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

京都大学理学部および同大学院博士課程卒業(理学博士)、日本医科大学助手、水産庁中央水産研究所主任研究官、九州大学理学部助教授、東京大学海洋研究所助教授を経て 2003年より現職。GCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」リーダー(2007-2012)、日本生態学会元会長、日本海洋政策学会理事、個体群生態学会副会長。ヨコハマ海洋みらい都市研究会共同代表。

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