米山正寛(よねやま・まさひろ) ナチュラリスト
自然史科学や農林水産技術などへ関心を寄せるナチュラリスト(修行中)。朝日新聞社で科学記者として取材と執筆に当たったほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会「グリーン・パワー」編集長などを務めて2022年春に退社。東北地方に生活の拠点を構えながら、自然との語らいを続けていく。自然豊かな各地へいざなってくれる鉄道のファンでもある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
渓流沿いで育まれていた植物と昆虫のふしぎなつながり
渓流沿いのような湿った木陰で、春に花を咲かせる植物にチャルメルソウの仲間がある。緑色や褐色を帯びた小さな花は地味で、春の野草の中でも知名度は決して高くないだろう。果実の形が、木管楽器のチャルメルに似ていることから、こんな名前が付いたという。これまでに13種が知られるが、そのほとんどが日本に固有で、日本列島の中で種の分化を繰り返したとみられている。とはいえ、決して珍しい植物ではなく、比較的広く分布するチャルメルソウやコチャルメルソウなら、出合うこともそんなに難しくはない。
その仲間の花を訪れて花粉の受け渡しをするのは、これまた地味なキノコバエの仲間である。そして、そんなキノコバエを支えるためにコケの存在が欠かせないとわかってきたのは、つい最近のことだ。森の中で営まれている、植物と昆虫のふしぎな3者関係を紹介してみよう。
この関係を解き明かしたのは国立科学博物館植物研究部の奥山雄大研究主幹(39)だ。そもそも、奥山さんが大学生になったころ、まだチャルメルソウの仲間の花粉を何が運んでいるのかは分かっていなかった。大学演習林での観察をもとに、4年生の時にキノコバエの仲間がその役割を担っていることを突き止めたのが最初の研究成果だそうだ。
以来、チャルメルソウなどを材料に植物と昆虫の関係を調べ、新しい種が進化するしくみなどについて研究してきた。5年前には、チャルメルソウの仲間の花が発する匂いに対する好みの違いで、花にやってくるキノコバエの種類が変わり、それが種の分化を引き起こしている原動力の一つであることを森林総合研究所や京都大学との共同研究で突き止めた。また。チャルメルソウの仲間では約半世紀ぶりの新種となった、奄美大島産のアマミチャルメルソウを発表したのは4年前のことだ。
さて、こうしたチャルメルソウの仲間の繁殖に欠かせない存在であるキノコバエという昆虫のグループは、そもそもキノコに卵を産んで幼虫がキノコを食べて育つものが多いことから、こう呼ばれるようになった。だからキノコ栽培の世界でキノコバエは害虫であり、それなりに研究は進んでいた。
ところが「キノコに来るキノコバエの仲間のリストがあったが、チャルメルソウに来るキノコバエは、そこに載っていなかった」。だとすると、キノコを食べないキノコバエらしい、と奥山さんは気付いた。十数年前の話だが、その時点では何を食べているのか、はっきりしなかったのだ。
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