渓流沿いで育まれていた植物と昆虫のふしぎなつながり
2020年05月18日
渓流沿いのような湿った木陰で、春に花を咲かせる植物にチャルメルソウの仲間がある。緑色や褐色を帯びた小さな花は地味で、春の野草の中でも知名度は決して高くないだろう。果実の形が、木管楽器のチャルメルに似ていることから、こんな名前が付いたという。これまでに13種が知られるが、そのほとんどが日本に固有で、日本列島の中で種の分化を繰り返したとみられている。とはいえ、決して珍しい植物ではなく、比較的広く分布するチャルメルソウやコチャルメルソウなら、出合うこともそんなに難しくはない。
その仲間の花を訪れて花粉の受け渡しをするのは、これまた地味なキノコバエの仲間である。そして、そんなキノコバエを支えるためにコケの存在が欠かせないとわかってきたのは、つい最近のことだ。森の中で営まれている、植物と昆虫のふしぎな3者関係を紹介してみよう。
この関係を解き明かしたのは国立科学博物館植物研究部の奥山雄大研究主幹(39)だ。そもそも、奥山さんが大学生になったころ、まだチャルメルソウの仲間の花粉を何が運んでいるのかは分かっていなかった。大学演習林での観察をもとに、4年生の時にキノコバエの仲間がその役割を担っていることを突き止めたのが最初の研究成果だそうだ。
さて、こうしたチャルメルソウの仲間の繁殖に欠かせない存在であるキノコバエという昆虫のグループは、そもそもキノコに卵を産んで幼虫がキノコを食べて育つものが多いことから、こう呼ばれるようになった。だからキノコ栽培の世界でキノコバエは害虫であり、それなりに研究は進んでいた。
ところが「キノコに来るキノコバエの仲間のリストがあったが、チャルメルソウに来るキノコバエは、そこに載っていなかった」。だとすると、キノコを食べないキノコバエらしい、と奥山さんは気付いた。十数年前の話だが、その時点では何を食べているのか、はっきりしなかったのだ。
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