世界的に注目を集める新基軸、化学農薬や肥料を減らせるか?
2020年05月26日
これまでは、人工太陽を地上に作る核融合の研究や、あるいはナノスケールの微細加工技術に欠かせないものとして、主に物理学や電子工学の分野で研究されてきたプラズマだが、大気圧環境下で生成する技術が開発されたことで農業などへの応用が可能となった。その具体例を紹介しながら、プラズマ農業の可能性をお伝えしたい。
筆者らは、大気圧中で空気と水を原料とし、電極間に高電圧を印加して放電を起こして生成する「大気圧空気プラズマ」を使用して、農作物に感染する病原菌、ウイルスを殺菌(不活化)し、それによって農薬の使用量を減らして、最終的には農薬を使わずに栽培することを目指して研究している。
宮城県山元町での実証実験では、イチゴベンチに沿ってゆっくり自走しながらプラズマを噴霧する「自走式プラズマ噴霧システム」を稼働させている(写真)。大気圧空気プラズマ中を通過させた殺菌成分を含んだ空気(これを「プラズマ活性ガス」と呼んでいる)を噴霧すると、イチゴ苗(葉、茎、実、等)の表面に存在する病原菌を死滅させることができる(殺菌作用)。
詳細な殺菌実験は東北大学の実験室内で行っている。イチゴの病原菌の中でも感染力の強いイチゴ炭疽病菌を調べ、プラズマ活性ガスが胞子(分生子)の発芽を抑止することを確かめた。イチゴ炭疽病菌は糸状菌(かび)であり、胞子(分生子)が発芽して感染していくので、感染拡大を防ぐためには発芽を抑止することが有効である。
実際には、病原菌は葉などの表面の水滴に存在している場合が多いため、プラズマ活性ガスが水に溶解して、その水の中で生成される成分が殺菌作用を示す。具体的にそれがどういう成分なのかについても調べ、複雑な化学反応の中で生成された液相中(水中)の活性種、過酸化亜硝酸HOONOおよび過硝酸HOONO2だろうと突き止めた。
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