米国の映画ジャーナリズムと民主主義の底力
同時多発テロ後を描くドキュメンタリー・フィクション映画「ザ・レポート」を見る
鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授
新型コロナウィルス感染症の拡大により、「ステイホーム」を余儀なくされたが、映画好きの私にとっては、不幸中の幸いで映画の「見ダメ」ができる貴重な期間となった。その中で、最も強烈な印象を与えたのが、米映画「ザ・レポート」であった。
原題は “The (Torture) Report”として、丸カッコのなかの「Torture(拷問)」の部分が黒塗りになっているのだが、その理由は本編を見ていただければと思う。この映画を見て、今の日本の国会や政治状況を見ると、いかに日本の民主主義が浅くて脆いものか。そう痛感せざるを得なかった。この映画を通して、コロナ対応に揺れる日本を振り返ってみたい。
9.11後の米国:高揚感とダークサイド
この映画は、2001年9月11日の米国同時多発テロ後の米国を描いた実話に基づく、ドキュメンタリー・フィクション映画だ。9.11直後の米国は、「テロとの戦い」を背景に、全国で愛国的雰囲気が漂い、当時のブッシュ大統領は高い支持率を得て、米国愛国者法の成立(2001年)、国土安全保障省の設立(2002年)など、次々とテロ対策を強化していた。こういった高揚感が少しずつ薄れてきていた時期(2009)に、この映画の主人公である上院議会スタッフのダニエル・ジョーンズ(「スター・ウォーズ」シリーズのアダム・ドライバーが好演)は、CIAが実施した犯罪人に対する「拘留・尋問」に関する調査チームのリーダーに任命される。

「ザ・レポート」(Amazon Prime Videoで配信中)から
映画は、調査が進むにつれ、CIAの「強化尋問技術」と呼ばれる事実上の拷問の実態が明らかにされていく。このあたりはミステリー映画を見ているようで、緊張感が続いていく。しかし、映画の後半には、その事実を明らかにしようとするジョーンズが、徐々に孤立化していく過程が冷酷なまでに描かれる。
CIAの内部でも疑問視されながら、尋問を任されたチームは「情報をとるには他に選択肢がない」との口実をつけて拷問を継続し、そのうち拷問自体が目的化していく恐ろしい過程、事実を隠蔽しようとする政権中枢部、その圧力を感じつつ長期にわたる調査に疲れ果てて辞任していく調査メンバー、上司でもある上院議員からも妥協を迫られる主人公……。まさに、米国政治のダークサイドを、これでもか、というばかりに暴露していく過程は、「アメリカでさえこうなのか」と救われない気分になっていく。