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オンライン授業拡大の中で浮き彫りになる「変われない公立学校教育」

コロナの時代は「ハイブリッド型授業(教育)」が求められている

三田地真実 行動評論家/言語聴覚士

オンラインで「コミュニケーションへの意識」が変わる

 新型コロナ感染症の影響により、様々な業種で業態変革が起こった。全社員が自宅で仕事を行う「リモート勤務」に切り替えた企業も多い。オンライン化できるのかと思われたような業種であっても、次々にオンラインを活用しての生き残りに必死になっている。例えば、対面販売からオンラインショップへの切り替え、拡充はもちろんのこと、オンラインでの学習塾、遂にはオンラインスナックといったところまで変化は進んでいる。あるいは、コロナのためにキャンセルになってしまった結婚式を友人たちがオンラインで祝ったという報道もあった。オンライン診療も本格化している。

休校の小学校で試行したオンライン授業。茨城県神栖市立波崎西小6年1組の教諭と児童たち=2020年5月21日、神栖市波崎、村山惠二撮影

 一度でもオンライン会議に参加したことがある人ならわかるだろうが、このシステムを使うと今までのような「ぼんやりと何も考えないまま」のコミュニケーションは成立しない。ややもすると伝達が阻害される不自由さがあるからこそ、「しっかり伝えたい」「しっかり聞きたい」という今までにない「コミュニケーションへの意識づけ」が自然と生まれる。オンライン会議システムの介入という環境変化が私たちの行動を変容させつつある。「行動は環境との相互作用による」という行動分析学が教える通りの現象が、いま世界中で起きている。コロナは、今まで一部の人だけが享受していたオンラインの恩恵を一気に世界中にもたらした。これは「コミュニケーション革命」と言える大きな変革であろう。

 筆者は行動分析学を専門とし、コロナ危機に際して自大学の全授業をオンライン化する全学責任者として、怒涛の日々を体験した。本稿では、この間の教育界の動きを筆者の視点から概観し、今やあらゆる教育現場でオンラインを様々に活用した「ハイブリッド型授業(教育)」が求められていること、そのための準備に各地の教育委員会がもっと積極的に取り組むべきことを提言したい。

大学教員は必死にオンライン授業のやり方を学んだ

 本年3月、大学を含む多くの学校がなすすべもなく休校措置をとった。そのまま入学式も中止(あるいは簡易に実施)され、授業開始はどんどん先延ばしされていった。コロナの収束がいつとは確定できない中、多くの大学はライブ配信か録画した動画配信かの違いこそあれ、5月頃にオンラインを活用した授業を開始した。

 筆者の大学ではコロナ対策は長期戦であるという危機管理方針の下、4月のわずか数週間の間に非常勤を含めた全教員対象に合計4回の研修を実施、延べ250人が必死にオンライン会議システムを使った授業運営の準備に取り組んだ(論座・鬼頭秀一「オンライン授業の利点とコロナ後の大学のあり方」参照)。元々通信制母体の大学ではあったが、年度早々に行ったICTの実態調査では、全くこのようなシステムは使ったことがない教員も一定層いることが判明し、研修はそういう教員も含めて一人残らずオンライン授業ができるようにデザインされた。講師も受講者も「全員自宅から」の研修だった。

星槎大学が外部に公開したオンライン授業研修の資料の表紙
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 このとき使った資料をウェブで公開したところ、1か月足らずの間にダウンロード数は1700を超え(自身の論文ではあり得ない数である)、いかにこの初学者向けの研修のニーズが高いかが伺い知れた。さらに他大学ではこのようなスキル研修もなくオンライン授業の実施を指示されるだけの教員が余りに多いのを見るに見かねて、無料のオンライン講座も同僚教員と共に数回実施した。これには延べ200人が参加し、自分の大学ですぐに同様の研修を行った、今後行いたいという報告を受けている。

浮き彫りになる変われない教育委員会と公立学校

 こうして、とにもかくにも大学はオンライン授業をかなりの率で導入してきた。ところが、なかなか導入が進まないのが、特に公立の小中高の教育現場ではないだろうか。その理由として

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