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教育にもっと予算をつけよう——日本の政府支出は低すぎる

欠けている本質的な議論 半年遅れの9月入学移行は改悪だ

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 メリットがあるかもしれないのは、義務教育を「半年早めて」9月入学を実行した場合である。とすれば、現在の高校3年生はこの6月に卒業しなくてはならず、問題となっている授業時間不足の解決にはならない。さらに、今後の状況によっては断続的に臨時休校が余儀なくされる可能性も高い。これがコロナによる授業時間不足への対応と9月入学とはそもそも独立に議論すべきだとする理由である(後述のように、私は半年ではなくむしろ1年早めた4月入学にするべきだと考える)。

2 9月入学は日本留学したい外国の高校生にメリットがあるか

 私はメリットがないと考えるが、これは1に比べればやや主観が混じっていることは認めざるを得ない。この項目をメリットが「ない」ではなく「あるか」という修辞疑問文にしたのはそのためだ。

拡大9月入学にすれば外国人留学生が増えるのか
 外国に留学する日本人にとって英語(と文化)は大きなバリアである。とはいえ、日本では通常6年間以上(現在は何故か小学校でも英語は必修らしい)英語を学んでいる。しかし、外国から日本の大学に入学し、日本語で講義を受けるのは、それ以上にバリアが高い。とすれば、5月あるいは6月に卒業した学生を受け入れる大学が、3月までの期間は日本語の特別プログラムを提供し、4月から入学してもらうほうが留学生と大学の双方にとってメリットとなるのではあるまいか。

 少なくとも私であればそのほうが安心である。その意味において、半年間のずれは、マイナスどころかプラスとして活用できるはずだ。これ以上は教育関係者による定量的な議論が必要であるが、少なくとも私の実感としては、9月入学にしたからといって外国から日本の大学への留学生が有意に増加するとは信じがたい。

3 半年遅れによる9月入学は日本の生徒にメリットがない

 9月入学は国際標準「だから」日本も合わせるべきだ、との主張は何を意図しているのかわからない。百歩譲って、大学入学時期に限ったとしても、日本の高校生にとってメリットがないことはすでに述べた。ましてや、義務教育である小中学校までもが「半年遅れて」9月入学に移行するのでは、すべての日本人を半年間留年させるに等しい暴挙である。そもそも、日本と外国の教育ではカリキュラム自体が異なっているので、入学時期を合わせたところで、意味がない。家族の転勤のために、外国で教育を受ける例外的な生徒であってすら、9月入学など意味がない。むしろ、同じ年齢までに学ぶ内容が半年遅れるデメリットのほうが遥かに甚大である(これに関しては、末冨芳・日本大学教授の論座記事が明快に指摘し尽くしている)。

4 9月入学などではなく、日本の教育現場の現状を議論すべき

 ここまでの説明を通じて、4月入学か9月入学かという視野の狭い議論そのものが不毛であることには同意してもらえたのではないだろうか。

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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に、『人生一般二相対論』(東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『この空のかなた』(亜紀書房)、『情けは宇宙のためならず』(毎日新聞社)、『不自然な宇宙』(講談社ブルーバックス)、『宇宙は数式でできている』(朝日新聞出版)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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