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コロナ治療薬研究でデータ収集会社に疑義、論文3本取り下げ

ノーベル賞「イベルメクチン」の有効性を示す論文も

高橋真理子 朝日新聞科学コーディネーター

拡大検疫室の中の新型コロナ患者=shutterstock.com
 ノーベル賞の大村智さんが発見した河川盲目症(オンコセルカ症)の薬「イベルメクチン」が新型コロナにも劇的に効く可能性があると世界で初めて示した論文が取り下げられた。これ以外にも、著名な査読付き論文誌に掲載された新型コロナ治療薬にかかわる注目論文2本が取り下げられた。

 3本とも米国の会社サージスフィアが提供した電子カルテのデータベースをもとに書かれた論文で、そのデータの正しさが確認できなかった。世界が協力して一刻も早く新型コロナの治療薬を探しだそうとしている中、患者データの共有という基盤部分の危うさがあらわになった形だ。と同時に、査読付き論文誌の査読が、新型コロナについてはスピード重視なのか、相当ずさんであったこともあらわになった。ただし、3本目の論文発表から取り下げまで約2週間というスピードは「良かった」と言うべきかもしれない。

4月に発表されたイベルメクチンの論文

 「パンデミック初の大型研究不正噴出」と題する『Science』の記事(6月5日)や研究不正の情報収集をしている『リトラクション・ウォッチ』、科学雑誌『The Scientist』などの報道をもとに、事態を振り返ろう。

 イベルメクチンの論文は4月6日にプレプリント(査読を受けない論文)として発表された。サージスフィア社の創設者兼CEOのサパン・デサイ氏とハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ・ホスピタル(BWH)の心臓専門医マンディープ・メーラ氏、ユタ大学の研究者らが共著者となっており、1月1日から3月1日まで世界中の169の病院で収集された新型コロナの患者データを使用したとしていた。4月19日には、3月31日までのデータを利用した長い改訂版を公表、イベルメクチンが人工呼吸器の必要性を65%、死亡率を83%減らしたと主張した。

 イベルメクチンは抗寄生虫病薬だが、抗ウイルス作用もあることが確かめられている。南米やアフリカで今も広く使われている薬であり、ペルー政府やボリビア政府はさっそく新型コロナにもイベルメクチンを使えるようにし、無料配布する動きも出た。

 もっとも、これは査読を受けない論文なので、医療界での信用度は低く、注目度も低かった。しかし、残る二つの論文は、権威ある査読付き論文誌「ランセット」と「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」に発表され、注目度が高かった分、たちまち世界中から「突っ込み」が相次いだ。

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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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