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新型コロナ対策の次亜塩素酸水で「本当に怖いこと」

「有効性」「安全性」めぐって深まる混乱 欠かせない事実の見極め

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(西部報道センター)

 新型コロナウイルスが広がり、消毒用のエタノールが品薄となるなか、代替になりそうな「次亜塩素酸水」が注目されてきた。名前の似た「次亜塩素酸ナトリウム液」には、新型コロナに対する有効性が認められている。だが両者は別物で、勘違いや混乱が少なくない。

 次亜塩素酸水については5月末、検証していた経済産業省などが「現時点では有効性は確認されていない」との中間結果を示した。これに次亜塩素酸水生成器のメーカーなどが「効果を示すデータはある」と反発し、対立も生まれている。どう考えればよいだろうか。

 この話には、つまずきの石がいくつも転がっている。ちょっとややこしくて、誤解しやすいのだ。つまり、
【問題1】次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム液、どちらの話題か?
 と混同しがちで、この両者それぞれに、
【問題2】ウイルスや菌に効くのか? また新型コロナにも効くか?
 という有効性の疑問がからみ、さらに、
【問題3】手や指に使って大丈夫か。室内で噴霧しても安全か?
 といった安全性の問題が重なるからだ。食い違いや誤解が二重三重に積み上がって、対立も複雑になりがちだ。

 だがそもそも「感染症の被害やリスクを抑えたい」という切なる願いは、みんなに同じはず。いがみ合いばかりが深まれば不幸だ。まずは順番にこれらの問題点を整理してみたい。

混乱1 次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの違いは?

 いささか不遜な言い方だが、ごく基礎的な化学知識がある人にとっては、ここで混乱が生じることを想像しづらいようだ。もうすこし身近なもので置き換えて、直感的につかんでみてはどうだろう。

経済産業省などの資料をもとに編集部で整理
 次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの関係は、ちょうど「炭酸水」と「炭酸ナトリウム」の関係に相当する。炭酸水とは、あのシュワシュワっとした水のこと。気体である二酸化炭素(CO2)が溶けていて、放置すればじわじわと気泡になって抜けていく。保存には冷蔵庫が向く。一方、炭酸ナトリウムは白い粉末で、炭酸ソーダやソーダ灰といった別名もある。水に溶かすとアルカリ性を示す。こんにゃくの凝固剤などにも使われる。

 次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの関係も、これに似ている。次亜塩素酸は不安定な気体だが、水に溶かすとある程度は保存できる。次亜塩素酸ナトリウムの水溶液は、要するに「ハイター」や「ブリーチ」などの漂白剤で、強いアルカリ性だ。

 次亜塩素酸水は食品添加物であるほか、歯科医院などでも洗浄に用いられ、それほど強い刺激性はない。でも次亜塩素酸ナトリウム液は強烈だ。まさかハイターを飲む人はいないだろう……と思っていたら、そうでもなかった。「NHKから国民を守る党」という微妙な組織に属する市議が、次亜塩素酸ナトリウム液について「服用すると体内の血液中に吸収され細菌を殺す」などとデタラメを発信。これを真に受けた同党の女性が、本当に飲んで体調を崩した。なんとも世の中は奥深い。

混乱2 次亜塩素酸水は新型コロナウイルスに有効か?

 次に2点目の問題。先月末から、ここで対立が深まっている。新型コロナに効くのか?

    1.有効 2.無効 3.分からない

 3択の正解は、関係省庁の現時点の見解では「3」だ。つまり、まだはっきりしない。ところが、この「分からない」をそのまま「無効だ」と誤解する人がけっこういる。わが論座の筆者陣もそうで、なんとも心苦しい。関係者が苛立つのもわかる。

 経緯はこうだ。まず関係省庁が「新型コロナウイルスの消毒に有効である」として当初から認めていたのは、次の二つ。

左から森永乳業とフクダ電子の次亜塩素酸水生成器、右は次亜塩素酸を使うパナソニックの空間除菌脱臭機

  ・エタノール
   (エチルアルコール)
  ・次亜塩素酸ナトリウム
   (ハイターなどの漂白剤)

 ところがハイターは手指の消毒に使えず、エタノールは品薄。そこで「有効かも知れないので、確かめよう」と選ばれ、検証に入ったのが次の三つだった。

  ・界面活性剤(台所用洗剤)
  ・次亜塩素酸水
  ・第4級アンモニア塩

 そして5月下旬、このうち一部の界面活性剤に有効性が認められたが、次亜塩素酸水には結論が出ず、いまも検証中。ところがこれが「次亜塩素酸水は新型コロナに効かない」といった誤解を生んだようで、困ったことだ。

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