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無症状の妊婦に新型コロナPCR検査はすべきでない

妊婦にメリットはほとんどなく、院内感染の予防にもつながらない

室月淳 宮城県立こども病院産科部長

拡大shutterstock.com

無症状の妊婦への検査に公費補助という方針

 新型コロナウイルス感染(COVID-19)を調べるPCR検査について、妊婦さんには症状がなくても検査費用を公費で補助するという方針が厚生労働省から出されました。すでに一部では全妊婦を対象とする検査が始まっているところもあるようです。分娩施設での院内感染がおこることを心配した産科医の要望が実現したものと聞きましたが、PCR検査の拡充を求める世論に後押しされたことも背景にあったようです。ただし厚労省から出た方針は、院内感染対策ではなく、妊婦さんの不安解消を目的に希望者のみの検査を補助対象とするものです。

 発熱や肺炎が疑われる症状がある妊婦さんはもちろんPCR検査の対象となりますが、多くの産科医療施設では、症状の有無にかかわらず妊娠37週ころの時期の全妊婦を対象にPCR検査をおこなうことが念頭にあるようです。いわゆる「ユニバーサルスクリーニング(すべての人を対象とする検査)」と呼ばれるものです。しかし、わたしは産科医として症状のない妊婦さんに対するこのユニバーサルスクリーニングはやるべきではないと考えます。妊婦さんへのメリットはほとんどなく、院内感染の予防にもつながらないからです。以下に詳しくご説明します。

PCR検査は見逃しが多く、スクリーニングの役に立たない

 第一に、PCR検査で全例検査しても「スクリーニング(ふるい分け)」としてはあまり役立ちません。このことには少々解説が必要です。 PCR検査の特異度(陰性の人を正しく陰性と判定する割合)は99%以上といわれていて、この特徴を持つために診断確定に適した検査です。その一方で感度(陽性の人を正しく陽性と判定する割合)は40~70%と低く、感染の見逃しが半数近くと高くなります。

拡大子宮頸がん検診への理解を呼びかける啓発活動。説明を聞き「お母さんに渡してみる」と話す子ども=2018年4月15日、和歌山市美園町5丁目、關宏美撮影

 スクリーニング検査とはどういうものでしょうか。例として子宮頸がん検診を考えていただければわかりやすいでしょう。これは、無症状の人を対象として産婦人科医が内診しておこなう「スメア細胞診」が一般的です。細胞を少しとって、そこにがんのような細胞が含まれていないか調べるものです。簡便で費用も高くなく、なにより感度が高い、すなわち見逃しが少ないことが特徴です。ただ、陽性だったからといってがんとは限りません。検診で陽性となった人は専門施設で精密検査を受け、その中から本当の子宮頸がんを見つけていくことになります。

 つまり、スクリーニング検査は、このように感度が高い検査法が望ましいのです。特異度は多少低くてもかまいません。しかしCOVID-19のPCRは特異度が高いけれど感度は低い検査法ですから、そもそもスクリーニングに向いていません。この方法でスクリーニングをおこなえば「半数以上の見逃し」が生じることになります。これでは役に立たないとご理解いただけるでしょう。

妊婦さんにはメリットは少なく、デメリットが大きい

 第二に、そもそも妊婦さんにとってPCR検査を受けるメリットはあまりありません。妊娠初期にスクリーニングする梅毒やB型肝炎、エイズといった感染症の場合は、治療法やこどもへの垂直感染の予防策が確立しているため、妊婦さんがそういった細菌やウイルスをもっているかを調べることには医学的にとても意義があります。しかし、新型コロナウイルスについては、妊婦さんがふつうの人より重症化しやすいかについては議論がありますが、感染がわかったからといってとくに治療の方法が変わるわけではありません。したがって検査を受ける医学的意義がないのです。

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筆者

室月淳

室月淳(むろつき・じゅん) 宮城県立こども病院産科部長

1986年東北大学医学部医学科卒業、臨床研修を経て1989年に東北大学医学部産科婦人科学教室に入局。1993年から3年間、カナダ・ウェスタンオンタリオ大学ローソン研究所に留学。2004年岩手医科大学産婦人科講師、2007年東北大学産婦人科准教授、2009年宮城県立こども病院産科部長、2010年から東北大学大学院医学系研究科先進発達医学講座胎児医学分野教授を併任。著書に『出生前診断の現場から 専門医が考える「命の選択」』(集英社新書)など。