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「野生動物を人間は利用すべきでない」のか

尊重すべきは地元の判断、象牙問題で安易に欧米に追従するな

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

 人間社会を脅かす新興感染症は、いずれも人獣共通感染症である。SARS(重症急性呼吸器症候群)、新型インフルエンザ、そして新型コロナ(COVID-19)と、相次ぐ新興感染症の脅威に、「野生動物を利用すべきでない」という意見が出てきている。もともと「野生動物を殺すな」という声は大きい。実は日本人はほかのアジア人と比べて、魚以外の野生脊椎動物の肉を食べる経験が極端に少ないという(WWFの調査)。一方で、象牙の合法市場を維持している国として批判されることがある。果たして、野生動物の利用は避けるべきことなのか。象牙問題を軸に、日本が取るべき道を考えてみたい。

専門家は象牙の市場閉鎖を求めていない

拡大アフリカゾウ=ケニアのマサイマラ国立公園、Volodymyr Burdiak、shutterstock.com
 日本が象牙の合法市場を維持していることについて、象牙問題の専門家から批判は出ていない。アフリカ中部東部ではゾウは絶滅危惧だが、日本が輸入再開を望む南部アフリカでは絶滅危惧ではないからだ。実は、持続的利用を図る(太陽政策の)地域の野生動物は増えていて、禁猟政策を採る(北風政策の)地域では減っている傾向にある。国際自然保護連合(IUCN)も、禁猟にする保護区より、ゲーム狩猟を認めるほうが地元主体の保護策がとりやすいと2012年に推奨している

 象牙の密猟密輸は、たしかに2010年ごろまで増え、アフリカ中部東部のゾウはさらに個体数を減らした。2018年に中国が国内市場を閉鎖して以後、タイから日本以外の地域への密輸が問題視されている。だが、密猟対策に有効なのは原産国の貧困対策や汚職対策であり、合法市場を閉鎖することは密売価格の高騰を招く逆効果の可能性が指摘されている。時折日本からの象牙密輸品が押収されるが、これらは昔または1999年と2009年に合法的に南部から輸入された象牙であり、日本の市場が密猟密輸を増やしているという根拠はない。

 そして密猟と密輸はそれぞれ2013年と2011年ころから減っていて、現在の政策は奏功している。ワシントン条約の元事務局長らは、日本の象牙市場閉鎖は象の保護に逆効果であり、むしろ象牙の世界取引を注意深く再開することがゾウの保護の利益になるといっている。

欧米諸国も害獣である野生動物を捕殺している

 アフリカゾウがアフリカの農作物を食べ、農民を踏み殺す害獣であることはあまり知られていない。日本では

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筆者

松田裕之

松田裕之(まつだ・ひろゆき) 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

京都大学理学部および同大学院博士課程卒業(理学博士)、日本医科大学助手、水産庁中央水産研究所主任研究官、九州大学理学部助教授、東京大学海洋研究所助教授を経て 2003年より現職。GCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」リーダー(2007-2012)、日本生態学会元会長、日本海洋政策学会理事、個体群生態学会副会長。ヨコハマ海洋みらい都市研究会共同代表。

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