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イージス・アショアの配備中止と、辺野古新基地の建設強行

明らかになった政府のダブルスタンダードと沖縄差別

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 6月15日、河野太郎防衛相は秋田県と山口県で進めてきた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を中止すると表明した。迎撃ミサイルを発射した後に落下するブースターから周辺住民の安全を確保するための技術開発にコストと時間がかかるからだという。

イージス・アショア配備中止を決め、秋田県の関係者に頭を下げる河野太郎防衛相(左)=6月21日、秋田市、寺本大蔵撮影
 これに沖縄県の玉城デニー知事が直ちに反応した。「コストと時間を考えたら辺野古の方がより無駄ではないか」というのだ。辺野古新基地建設は、軟弱地盤の改良のため、運用までに少なくとも12年かかり、工費も当初計画の2.7倍の約9300億円(県の試算では2兆5500億円)と膨らんでいるからだ。コロナ対策で財政の破綻が危惧されるときに、辺野古につぎ込まれる血税は「イージス・アショア」の比ではない巨額である。そして沖縄県民は、国政選挙、地方選挙、さらには昨年2月の県民投票を通じて反対の民意を繰り返し表明してきた。軍事技術的にも時代遅れのものとなるのではとの声が自民党の中からも聞こえてくる。

 一方で「イージス・アショア」配備計画を中止し、他方で辺野古新基地建設を強行するという国の姿勢は、明らかに二重基準であり、またもや沖縄が差別されるのかとの反発が沖縄県民の間に広がっている。主要メディアもまた多くの国民も沖縄の声にあまり聞く耳を持たないように見えるが、それは日本の民主主義の劣化を加速させるものとなるのではと危惧される。

粛々と工事を強行する沖縄防衛局

 国中が新型コロナ禍で大騒ぎとなり、4月7日に政府が緊急事態宣言を行い、そして沖縄でも4月20日に玉城デニー知事が県独自の緊急事態宣言を発表する中で、沖縄防衛局は4月21日、大浦湾における地盤改良工事に伴う埋立変更承認申請書を沖縄県に提出した。翌22日の地元紙琉球新報は、「コロナ渦中に申請 対立新たな局面へ」と特大の見出しでこのニュースを伝え、「工事中断しコロナ対策を」という玉城知事の発言を報じた。

 申請の概要説明資料で、沖縄防衛局は「計画変更に伴う環境影響の予測を改めて実施し、予測結果が現行の環境保全図書と同程度又はそれ以下であったことから、現行の環境保全措置等と同等の内容を実施する」とし、この結論に「環境監視等委員会」の承認が得られたとしている。しかしこの主張は、とうてい承服しがたい。

 水深30メートルの大浦湾に張られている汚濁防止膜のカーテンは海面下7メートルしかなく、汚濁の拡散は当初計画でも必至であった。工期短縮のために無理な工法変更を行い、外周護岸を閉じる前に先行盛土を行うというのだから、大浦湾の汚濁は測り知れないものとなろう。防衛省が実施したアセスで5600種もの生き物が生息しているとされる大浦湾の環境に甚大な悪影響を及ぼすこと必至である。

辺野古の工事再開に抗議する人たち=6月12日、沖縄県名護市、吉本美奈子撮影

 また、防衛省がお墨付きを得たとする「環境監視等委員会」は独立性・第三者性に欠ける御用委員会であることも忘れてはならない。委員の中に埋立事業を受託する民間企業から研究費を受給している者が複数名含まれているからである。

 そして政府は、工事関係者に新型コロナ感染者が出たことと、6月7日の沖縄県議選で争点となることを避けるために、約2カ月間にわたり工事を中止していたが、6月12日に57日ぶりに工事を再開した。玉城デニー知事は県議選の結果を踏まえ「辺野古反対の民意は明確になった」「工事再開は大変遺憾だ」と述べたが、安倍首相は「自民党の議席をだいぶ増やすことができた」と工事を進める正当性を強調した。

軟弱地盤の無視は許されない

 国が辺野古新基地建設を進める大浦湾には軟弱地盤があるが、国はこの軟弱地盤の存在を2年以上隠してきた。それが明らかになったのは、土木技術者である沖縄平和市民連絡会の北上田毅氏が公文書の公開を請求したからである。本年4月に国が行った設計概要変更申請は、軟弱地盤を改良するためのものである。

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