永野博(ながの・ひろし) 政策研究大学院大学客員研究員、日本工学アカデミー顧問
慶應義塾大学で工学部と法学部を卒業。科学技術庁に入り、ミュンヘン大学へ留学、その後、科学技術政策研究所長、科学技術振興機構理事、政策研究大学院大学教授。OECDグローバルサイエンスフォーラム議長を6年間、務めた。現在、日本工学アカデミー顧問など。著書:『世界が競う次世代リーダーの養成』、『ドイツに学ぶ科学技術政策』
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日本工学アカデミーが海外の取り組みを調査、議員会館でワークショップ開催
「専門家会議」という耳慣れない言葉が新型コロナ感染症への対応の中で脚光を浴びてきた。その専門家会議が突如廃止され、新しい会議が立ち上げられる。未知のウィルスに正しく対応することへの関心から、専門家の言動に広範な国民の注目が集まっている中で、専門家の役割と政策立案者としての政治家の関係を考えてみる必要がある。
安倍首相や担当大臣はコロナの感染拡大を防ぐため、これまでいくつもの非常事態的施策を打ち上げてきたが、ここで二つの問いが浮かんでくる。一つは、最終的な政策決定をするこれらの政治家がどの程度、科学情報を理解する能力を有しているのだろうかということ、もう一つは、政治家が判断する際に、そもそも行政府から正しく情報が上がってきているのか、行政に都合のよい話しか上がってこないのではないかという点である。
実は、日本工学アカデミー(産学官の工学に関係する独立した個人により1987年に創設された公益社団法人で、2019年度末現在の正会員821名、客員会員31名、賛助会員47社・団体。30カ国が参加する国際工学アカデミー連合に日本を代表して加盟)では、コロナ禍を先読みしたわけではなく、この問いへの答えを探すために、先進国において、政策立案者・決定者たる立法府議員が科学者からどのように情報を得ているか、両者の間にどのような情報交流があるのかを調査してきた。2019年度の調査の結果、どの国でも形こそ違え、科学者の独立性を踏まえつつ情報を共有するシステムを構築し、それらがコロナ以前から機能していることが分かった。代表的な形を紹介する。
1.議会が自ら科学技術情報について審議する常設の委員会を整備している場合である。欧州議会の科学技術選択評価委員会、フランス議会科学技術選択評価委員会などでは議員が中心となって報告書の取りまとめに関与している。また、議会内に専門の部局を整備する場合もある、英国議会科学技術局、ドイツ連邦議会技術影響評価局、米国の連邦議会行政活動検査院などであり、いろいろな形で議員に情報を提供している。
2.科学者側が個別の科学者としてではなく、多様な専門分野を代表する科学者の集合するアカデミーとして積極的に活動する場合である。ドイツの国家科学アカデミー・レオポルディーナは