野生動物管理官を全国に。管理官不在では野生動物と共存などできない
2020年07月03日
コロナ禍で東京アラートが発動された翌日、足立区の河川敷では20人以上の警察官によるシカの大捕り物があり、200人を超える見物人や報道陣が詰めかけたという。シカやイノシシなど大型の野生動物が都市に出没するのは、すでに全国的な現象となってしまった感がある。
こうした都市出没の原因は、人間が自然を無管理状態に置き続けてきたことにある。かつて野生動物にとって最大の脅威は人間であった。シカやイノシシなどにしてみれば、最強の捕食者が人間だったのである。もっとも、その頃は人間が少なく、彼らも平野部で暮らすことができた。
しかし、明治期から昭和期にかけての人口爆発と乱獲の時代に、彼らは平野部や人里から一掃され、山に閉じ込められた。ところが高度経済成長期を過ぎたころ、人間は捕食者をやめてしまう。さらに高齢化、過疎化した里山や農地が無管理となり、結果的に集落周辺を大型動物たちへ最適な棲み処として提供してしまった。そこに流れる川の土手や河川敷は、人手も予算も足りずに荒れ果て、おかげで野生動物たちは身を人目に晒すことなく、易々と河川伝いに都市まで侵入できるようになったわけだ。
つまり、大型動物たちの都市出没問題は、野生動物の問題ではなく、人間社会の問題なのである。私は、こうした野生動物の社会問題を「野生動物問題」と呼んでいるが、その問題解決には、野生動物と人間と土地利用を適切に管理する必要がある。これを「野生動物管理(ワイルドライフマネジメント)」という。
ところが、わが国にはそれを実施する「野生動物管理官」と言えるものが不在である。当然、管理責任者がいなければ、管理などできるはずがない。いつまで経ってもシカやイノシシを警察官が追いかけまわす状況が変わらないのには理由がある。だからといって、決してこれを日常の風景になどしてはならないのである。
とりわけ問題なのはシカの激増だが、政府によって2013年から始まった「10年間で個体数を半減させる」という政策も、ハンターの減少などで目標達成には程遠い。そうこうしているうちに、分布域は都市部や高山地帯にまで拡大し、日本を代表する国立公園の大半でシカによる 自然植生への影響が出ている。貴重な自然林が枯死している場所も少なくない。もはや被害問題と一括りにはできず、国土保全の観点からも深刻な事態となった。
ペットブームに端を発する外来動物問題も近年、深刻化している。例えば、北米原産のアライグマは、アニメの影響でペットとして輸入されたが、野生由来の個体であるため、飼いきれず大半が遺棄されたものと思われる。すでに、全国の大都市で野生化し、捕殺数が年間3万頭にのぼる。一方で、人間はオオカミやカワウソ、トキやコウノトリなど、多くの野生動物を絶滅に追い込んできた。
2018年に岐阜県で28年ぶりとなるCSFが発生し、イノシシに感染してしまった。28年前にはイノシシが平野部に生息する状況ではなかったこともあり、イノシシへの感染対策は準備すらできていなかった。結果的に、わずか1年間で感染エリアは1万平方キロにまで拡大した。この間に、100億円単位の対策費が投入されているが、終息の目途はたっていない。
では、どうすればよいのか。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください