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コロナ禍で余儀なくされたオンライン学会の意外な利点

欧州地球科学連合総会の試行錯誤と今後の進化

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 新型コロナは世界中の大きなイベントを中止・延期に追い込んだ。それは学会も同じだ。

 実は、スカイプの登場以来、研究者の世界では10年以上も前からオンラインでの小会議が増え、特に最近の数年は、定例会や小さな研究会などはオンライン方式=ネット会議が主流となっていた。それ故に「逃げられない」ネット会議の数が増えて、却って忙しくなるという悪循環すら生んでいるほどだ。そのせいか、ネット会議をBGMに仕事をする人も増えている。もっともこちらのほうは、普通の会議でも興味のない話の時には手持ちのノートパソコンで内職をする者が多いから、以前と変わらないといえばそうかも知れないが。

 この流れから見ると、研究発表を主眼とする規模の大きい会議(以下、学会と略する)もオンライン化は可能なはずだ。しかし、オンラインによる発表は内輪のチームでの会議ならともかく、幅広い参加者を募る学会に組み込むのは私の知る限りことごとく不評で、どんなに重要な講演でも本人が会場に来られないならプログラムに入れないのが私の周りでは普通になっている。科学の発展のための最善のプログラムだからオンライン発表も入れるべし? そう思うのは主催者の思い上がりだ。わざわざ会場に足を運んだ参加者のためにこそ学会はある。

実際に会うことの重要さ

 実際に顔を合わせる機会というのは、それほどに特別だ。というのも研究に対して文章にしにくい疑問は数多くあり、直接会ったり行動を共にしたりすることで解消することが良くあるからだ。特に、相手が研究のどの部分に強いのか、信頼度の低い部分はどこにあるか、人間として信頼できるかは、テレビ会議でも判断できない類いのものだ。それらを探るには、残念ながら直接会うしかないのである。

拡大昨年の欧州地球科学連合総会(EGU)の様子。アルコールが入ると話も弾む。握手する二人の左は筆者=EGU提供

 その意味では学会のお茶の時間、昼食、談話は発表と同等に重要で、大きな会議では、会話を促進するために夕方ビール等を提供するのが普通になっている。飲むと確かに会話が弾みよいアイデアが出てきて共同研究がはかどる。

 そういう情報交換の場としての意義は学会規模が大きくなるほど増加する。何十もの研究発表会を平行して行なう数千人以上の規模の総会(コングレス)となると、所長クラスの参加者の中には、講演を聴くのは1日に1時間半程度で、残りを他の参加者との懇談に当てる者もいるぐらいだ。学会を純粋に発表の場として捉えがちの学生や若手研究者にとってすら、実は顔見せ・ネットワーキングという意義を持つ。それらはネット会議では困難だ。

拡大昨年の欧州地球科学連合総会のポスター発表会場=EGU提供
 もちろん、学会には「論文を読むだけでは得られない広範な最新知識を得る」「最新の知見を発表して意見交換する」という重要な(本来の)役割もある。それらはオンラインで代用できる面もあるが、それでも実際に顔を合わせるほど効率的ではない。さらに、異なる考え方やデータ、はては一見全然違う分野に見える人との出会いを通して、最新知見・世界動向の見落としを補える。

コロナで失われた「直接会う」機会

 ところが、新型コロナの流行で、直接会う機会としての学会が皆無になってしまった。予定された学会の多くは延期(無期限を含む)となった。11月開催予定の会議で1年延期が決まっているものもある。

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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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