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新型コロナがあぶり出した差別と偏見による健康の不平等

「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」は生存を脅かされた者たちの叫び

細田満和子 星槎大学副学長・教授

拡大ジョージ・フロイドさんの追悼式で、フロイドさんの似顔絵を掲げる女性=2020年6月4日午後、米ニューヨーク、藤原学思撮影

黒人に集中する新型コロナの甚大な被害

 ハーバード公衆衛生大学院の学部長ミシェル・ウィリアムズは、ワシントンポスト紙への寄稿で、白人警察官によるジョージ・フロイド氏の殺害と新型コロナで黒人の健康被害が甚大であることは、アメリカ社会に取り返しのつかないほど壊滅的な結果をもたらす可能性があると指摘した。アメリカでは、180万人以上が新型コロナに感染、10万人以上が死亡して世界最多となっているが、黒人の被害は特に深刻で、白人の3倍にも上っている。

 その理由としては、まず日本のような国民皆保険とは違う健康保険制度が挙げられる。黒人は健康保険に加入している割合が低く、たとえ入っていたとしても低い掛け金のプランなので受診したときの自己負担金が高く、体調不良でも受診しない人が多い。また、サービス業や肉体労働に従事していて人と接する機会が多く、テレワークが難しい。公共の交通機関を使うことが多く、多世代で暮らすのが一般的なので一人が感染すると家族内で広がってしまう。こうした多数の要因が挙げられている。

 しかし、このほかにも黒人の健康被害が深刻になっている重要な要素がある。それは、黒人に対する医療者の偏見に基づく不平等である。これは、いくら健康保険の制度が作られたり、差別を禁止する法律が制定されたりしたとしても解決しない問題である。

黒人に特有の病い、鎌状赤血球症はどう扱われてきたか

拡大正常な赤血球(右)と鎌状赤血球(左)=shutterstock.com
 黒人に対する医療者の不平等な在り方の問題を知るために、黒人特有のある病気について説明しよう。それは鎌状赤血球症(Sickle-Cell Disease)である。これは、正常ならば円盤状の赤血球が、草を刈る鎌のような三日月形になる遺伝病で、マラリア(蚊の媒介する感染症)に罹りにくい遺伝子変異として、アフリカや地中海沿岸諸国や南アジアにルーツを持つ人びとに見られる。アメリカでは黒人約10万人(500人に1人)が罹患している。慢性貧血や激しい痛みを伴う疾患で、根本的な治療法はほとんどなく、対症療法が取られているだけである。

 黒人女性医師で、鎌状赤血球症患者であるシモーネ・ウーアン(Simone Uwan)は、自伝『患者の体の中の医師-鎌状赤血球症と慢性疼痛を持ちながら大きな夢を持つ(A Doctor In A Patient's Body: Dreaming Big With Sickle Cell Disease And Chronic Pain)』で、

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筆者

細田満和子

細田満和子(ほそだ・みわこ) 星槎大学副学長・教授

東京大学大学院人文社会系研究科で博士(社会学)を取得し、2004年からコロンビア大学、ハーバード大学で社会学、公衆衛生学、生命倫理学の研究に従事。2012年に帰国し現職。主著書は『パブリックヘルス』、『グローカル共生社会へのヒント』など。世界社会学会医療部会会長。アジア太平洋社会学会会長。

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