COVID-19、大洪水、そして香港
2020年07月04日
しばらく前から気がついて、「いつ来るか」と待っていたことがある。中国南部の洪水のニュースだ。これがいつ日本や欧米の主要メディアに現れるか、注視していた。筆者がネットユーザーの投稿に気づいたのは6月中旬だった。が検索すると、遅くとも6月上旬には長江(=揚子江)流域の住民から、被害映像がアップされている。川が氾濫し、道路が濁流と化し、車や家が激流に押し流される。上空から撮影したと思われる、見渡す限り水面、という映像もある。それがひとつふたつの町ではなく、長江の上中流の広域で生じている。
ところが6月末まで、欧米・日本の主要メディアではほとんど報道がない。例外としてNHKが6月9日に報じているが、小さな扱いでその後のフォローもない。6月26日になって、NET IB Newsが「重慶では80年に一度の大洪水」と報じたが、これも主要メディアというよりはネット系だ。
長江沿岸は、毎年のように洪水に悩まされている。とはいえ今回は規模がちがう。そしてその下流域は、中国でもっとも都市と人口が密集し、経済の40%が集中している。今年に入ってからの被災した地域は、すでに26の省・自治区・直轄市におよび、被災者数1122万人、9300以上の家屋が倒壊した(6月最終週の時点でのネット情報)。中国応急管理部は6月23日までに、657万人に緊急避難を指示した。これらの数字はあちこちに当局の公式発表として出てくるので、一応信用できる。
また6月末現在で、長江沿いの湖北省の680、安徽省の299のダム湖で制限水位を超え、大量の放水を続けている。いわくつきの三峡ダムも、フル稼動で放水せざるを得ないらしい。つまりダムの上流も下流も数週間にわたって記録的な豪雨に見舞われ、ダムが洪水防止の用をなしていない。直接的な経済損失は日本円に換算して約3600億円という試算もある。被害集計の遅れや隠匿、その後も続く豪雨と、下流へと広がり膨れる水量。それやこれや考え合わせれば、むしろ被害はここから桁外れにはね上がるとみるべきだろう。
今後の見通しもおぞましい。もともと中国では「水を治める者が国も治める」といわれる。長江中流にある世界最大規模の三峡ダムは、当時の指導者・江沢民の肝入りで建設され、2009年に完成した。ただ「いわくつき」と述べたように、工期中から不正や安全性の問題がつきまとい、次の胡錦濤政権以降、徹底的に無視されてきた経緯がある。今回の被災でも、中央高官の視察・訪問はないらしい。
この三峡ダムについては、建設に直接関わった技術者を含めて、複数の治水専門家が危険を訴えている。もともと工事に問題があり、一部ですでに漏水しているともいう。もちろんネット情報なので、政治的バイアスを割り引かなくてはならない。だが万一、部分的にでも決壊すれば、3億〜4億人の住民が被害の危険にさらされる。また下流に集まっている中国解放軍の主要な兵站・救援部隊も打撃を受けるといわれる。
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