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だれがグリーン・リカバリーを邪魔しているのか

コロナ禍からの緑の回復のためにはエネルギー基本計画を変えるしかない

明日香壽川 東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授

 グリーン・リカバリー(緑の回復)という言葉がはやっている。多くの場合、「新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした経済停滞からの回復を、気候変動対策とともに進める」というような意味合いで使われている。先日、小泉環境大臣が、国際社会に対して、「各国のグリーン・リカバリーに関する情報をオンラインで共有して気候変動対策の強化につなげよう」と呼びかけた。これ自体は悪いことではなく、多くの国で情報やサクセス・ストーリーは共有されるべきだと思う。

 これまでも「グリーンなんとか」という言葉はたくさんあった。往々にして、このような言葉は、社会に対する大きなインパクトを持たないまま、ただ消費されて消えていく。「エコ」「地球にやさしい」など、販売促進のためのマーケティング用語になってしまっている場合もある。グリーン・リカバリーという言葉が持つ意味を少し深く掘り下げて、今の日本で具体的に何をするべきかについて考えてみたい。

リーマン・ショック後のブラウン・リカバリー

 グリーン・リカバリーという言葉は、今年の4月ごろから、欧米の研究者や国際機関が使い始めた。彼らの念頭にあったのは、2009年のリーマン・ショックの際のブラウン・リカバリーである。2009年に世界の温室効果ガス排出は1%減少したにもかかわらず、2010年は4.5%増加し、その後の5年間平均は年2.4%増加であった。景気回復策によって温室効果ガス排出はリバウンドしてしまった。

 今回のコロナ禍で、2020年の世界全体の温室効果ガス排出は8%減少すると予測されている。雇用創出や経済成長を達成しつつ、温室効果ガス排出のリバウンドも防ぎ、気候変動やパンデミックのような危機に対してレジリエントな社会もつくるというのがグリーン・リカバリーの狙いである。

 コロナの前から、グリーン・リカバリーのベースとなる考え方はあった。それは〝グリーン成長(Green Growth)〟であり、数年前からは 〝グリーン・ニューディール(Green New Deal)〟が研究者や政治家によく使われている。

グリーン・ニューディール政策の集会で演説するオカシオコルテス下院議員=2019年5月、ワシントン、ランハム裕子撮影グリーン・ニューディール政策の集会で演説するオカシオコルテス下院議員=2019年5月、ワシントン、ランハム裕子撮影
 例えば、2019年2月、米国の最年少下院議員であるアレクサンドリア・オカシオコルテスらは、まさに「グリーン・ニューディール」という決議案を下院に提出している。この決議案は、再生可能エネルギー(再エネ)関連インフラへの投資を拡大し、化石燃料に依存する経済社会システムの転換を目指したもので、雇用や格差などの社会問題とも連係させている。民主党の大統領選候補に決まったバイデン元副大統領は、最近、このオカシオコルテス議員を気候変動対策のブレーンとすることを発表した。

 これまでは、世界でも日本でも「環境よりも経済」という考え方が、主流のパラダイムであった。例えば、1967年に日本で制定された公害対策基本法の1条2項には、「生活環境の保全については、経済の健全な発展との調和が図られるようにするものとする」とある。これは環境調和条項と呼ばれ、通産省(当時)や産業界が入れることを強く要求し、水俣病をはじめ公害問題で日本中が騒然とする1970年にようやく削除された。

日本では先進国で唯一、石炭火力発電所の新設が続いている。九州電力松浦石炭火力発電所=2020年3月、長崎県松浦市、朝日新聞社ヘリから、堀英治撮影日本では先進国で唯一、石炭火力発電所の新設が続いている。九州電力松浦石炭火力発電所=2020年3月、長崎県松浦市、朝日新聞社ヘリから、堀英治撮影
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