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洪水被害は予期できたのではないか

中国がくしゃみをすれば、世界が風邪をひく

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 7月3日付の前稿で、中国関連情報、特に直近の中国南部における大洪水について、西側メディアで報道がないのは異常だ、と述べた(本欄拙稿『中国関連情報: 西側メディアの沈黙とネット市民の「襲撃」- COVID-19、大洪水、そして香港』)。まさにその翌日、熊本、鹿児島両県の一部に「大雨特別警報」が発令され、球磨川流域を中心に洪水・浸水が発生、被害は拡大した。連日報道される被害の拡大を見て、筆者は正直、後悔の念にかられた。

豪雨災害から10日あまりたった14日、熊本県人吉市では打ち付ける雨の中、片付けに追われていた=2020年7月14日午前9時57分、長沢幹城撮影
 大雨特別警報が最初に出されてすでに2週間近くだが、豪雨は断続的に九州から岐阜・長野あたりまで北上する一方、九州での被害も続いている。「街が丸ごと水没」「道路が激流に」といった、中国華南の被害映像で既視感のあるものを、今度は日本のTVなどで連日観ることになるとは。死者66人、住宅被害12,610棟というが(7月11日、NHK)、数字はこれから急増するだろう。洪水は高齢者養護施設など弱いところに打撃を与え、復旧も難航、避難生活、行方不明者の捜索は続いている。

 「後悔の念」と書いたが、もちろん記事を出したことを後悔した訳ではなく、むしろその逆だ。まず第一に、もっと早く出せなかったかという点(編集部は迅速に対応してくれたのだが)。そして何よりも、「数日以内に、同じ天災が日本を襲う」とはっきり書けなかったことだ。もちろん筆者だけの責任ではないが、大々的に警告・周知して準備を急げば、高齢者を中心とする人身被害だけは、かなり抑えられたのではないか。

 実は執筆中も、そういうことはちらりと脳裏をよぎった。が、いかんせん筆者は気象学にうとかった。そこで「後の祭り」ながら、少し調べてみた。

梅雨は東アジア独特の雨季

 まず「梅雨は東アジア独特の雨季である。」この認識は気象学では常識らしい (児玉、山田、2007)。5月中旬ごろから梅雨前線は天気図上に現れ、華南や南西諸島付近に停滞する(以下、ウィキペディア)。5月下旬から6月上旬ごろになると、九州や四国が梅雨前線の影響下に入り始める。このころから、梅雨前線の東部ではオホーツク海気団と小笠原気団のせめぎあい、他方、華北や朝鮮半島、東日本では、高気圧と低気圧が交互にやってくる。

 北上を続ける梅雨前線は、6月中旬に入ると、中国では南嶺山脈付近に停滞、日本では本州付近にまで勢力を広げてくる。次に梅雨前線は中国の江准(長江・准河流域)に北上する。6月下旬には華南や南西諸島が梅雨前線の勢力圏から抜ける。これが例年のパターン、ということだ。つまり梅雨の時季の気象は、東アジア全体で見る必要がある。

 次に今年の問題の時期、5月〜7月の東アジア天気図の推移を、半月刻みで例示する(気象庁サイトによる)。見ずらいかも知れないが、以下の3点だけ実感してもらえればいい。①発生した梅雨前線が(今年は特に)長く日本列島を横断したまま停滞している様子、②気圧配置が東アジア全体で安定し、高気圧が北から南に張り出す夏型になかなかならない様子、そして何よりも、③中国大陸の気象が日本列島のそれと直接つながっている様子、の3点だ。

5月24日と6月10日の東アジアの天気図(気象庁のサイトから)
6月25日と7月10日の東アジアの天気図(気象庁のサイトから)

 日本で大雨洪水警報が出たのは7月4日だが、前稿で述べた通り、華南で未曾有の規模の被害が出つつあることは、6月中旬の時点ですでに明らかだった。日本でも、気象庁や主要メディアはじめ官民で、もっと早く警戒の声を上げることはできなかったのか。

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