北原秀治(きたはら・しゅうじ) 東京女子医科大学特任准教授(先端工学外科学)
東京女子医科大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。ハーバード大学博士研究員を経て現職。専門は基礎医学(人体解剖学、腫瘍病理学)、医療経済学、医療・介護のデジタル化。日本政策学校、ハーバード松下村塾で政治を学び、「政治と科学こそ融合すべき」を信念に活動中。早稲田大学大学院経済学研究科在学中。日本科学振興協会(JAAS)代表理事。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ヨーロッパ最大の科学者コミュニティー「ユーロサイエンス」を例に
コミュニティーとは「人々が共同体意識を持って共同生活を営む一定の地域、およびその人々の集団や地域社会、共同体」(三省堂 大辞林 第三版)と定義される。開かれた科学者コミュニティーを日本で作ることは出来るのか。今回の話し合いから、その手がかりを探ってみた。
アメリカには、アメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science=AAAS、トリプル・エー・エス)という代表的な科学者コミュニティーがある。こちらは民間団体で運営され、科学者間の協力を促進し、科学的自由を守り、科学界からの情報発信を奨励、全人類の幸福のために科学教育をサポートすることを目的に組織されたもので、なんと100年以上も続いている。そして、世界最強の科学誌の一つ、「Science(サイエンス)」の出版団体でもあることは科学者の間ではよく知られている。
一方、ユーロサイエンスの問題意識は、完全に社会課題の解決に向いている。マトローズ会長は、世の中に発信することとしてまず大事なのは、「科学者には何ができるのか」を明確にすることであるという。そして次に大事なのは「科学者が他業界とつながる関係図の明快化」だという。
そのほか、ユーロサイエンスは「科学者のための整った国家レベルの研究環境の整備」、「若手研究者のスムーズな成長の場の構築」、「科学者の声を集約し政策提言の場を作る」ことなどを目的としている。これらの目的は、科学者コミュニティーでなければ決して達成できないことなのだという。科学者は、世界中皆同じような悩みや問題をかかえているものであり、科学者コミュニティーがそれらの問題を唯一解決できる手段であるとも述べた。
EU設立(1993年)後の1997年に発足したユーロサイエンスには現在約2600人の研究者と16の組織が集まっており、今後さらに拡大するとマトローズ会長はいう。そして今後、科学者向けに大規模アンケートを取り、科学者の考えを集約し政策提言へつなげる計画を持つ。
2004年からは2年に一度「ユーロサイエンスオープンフォーラム(ESOF)」という催しを実施している。ヨーロッパ大陸で手を上げてくれた開催都市に全てを委ね、ユーロサイエンスは名前とプラットフォームを提供するのみと、オリンピックと同じやりかたで実施している。