下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授
カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
動物のなかでのヒト、自然とのつながりでの脳機能…見つめつづけた偉大な精神
神経科学には、いわゆるモデル動物と呼ばれるものがある(マウス、ショウジョウバエなど)。それらと違い、遺伝子操作もできないどころか、飼育繁殖ですら困難なフクロウやさえずる鳥などを研究対象に選んだ。そこには生態学的関心があり、その奥には動物に対する強い愛着があったという。
筆者自身は、サンフランシスコの研究所でポスドクをしていた時代にマークの講演を初めて聞き、愕然とした。当時から私たちはヒトの視覚機能を脳との関わりで研究していたが、いかんせんあまりに複雑すぎた。場当たり的にいくつかの現象を取り上げ、その表面を引っ掻くぐらいが関の山だった。それに比べて、マークが解明した動物の聴覚機能とその神経回路の、なんと明快なこと。理論レベルから神経実装のレベルまで、ほとんどひとりでやってしまった。研究室に戻って「なんだ、ほとんど解明できてしまってるじゃないか。それに引き替えわれわれのやっていることは」と、当時の指導者と顔を見合わせたことを、鮮明に覚えている。
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