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化石と遺伝子で種子の皮の起源に迫る

過去と現在を結びつけて教科書の学説をくつがえす研究が植物で進んでいる

米山正寛 ナチュラリスト

 植物の種子には「種皮」と呼ばれる皮がある。誰も疑問には思わないだろう。でも、その皮の起源は何だろうか。

夏においしい枝豆。さやの中の種子に薄い種皮があるのは、誰もがご存じだろう=筆者撮影
 4億年前近くの化石を調べた研究からは、棒のような細い器官がくっついて、今は1枚の皮となっている種皮ができたとみられる。種皮の中には、最終的に植物体に育つ胚と、その栄養分となる胚乳ができる。では、種皮となった器官は、どのようにして生まれたのだろうか。

対立する二つの説

 大阪市立大学の山田敏弘教授(植物園長)によると、長く唱えられてきたのが「テローム説」だ。約4億3000万年前の中期シルル紀に登場した最初の陸上植物とされるクックソニアは、二叉分枝する軸だけからなる姿をしていた。テロームとは、植物の構成要素としての、この細い軸を指す言葉。ドイツの植物学者、故ウォルター・M・チンメルマン博士が1930年に、テロームをもとにして葉などのさまざまな植物組織がつくられたと説明したのがテローム説だ。

説明のイラストは、どれも山田敏弘さん作画
 これをもとに種皮についても、将来の胚や胚乳になる胞子囊の周りに二叉分枝する軸のようなものがあり、それらがくっついて皮となったと考えたのだ。本来ならすべての軸の先端に胞子囊があったが、それらはこうした変化の過程で真ん中の一つを残して消えたとされる。こうした種皮の起源についての説明は、大学で使われる教科書などにも長く取り上げられてきたそうだ。だが、山田さんはこの種皮の起源のテローム説に対して「理屈はパーフェクト。でも化石が出てこない」と話す。広く流布する説ではあるのに、化石という過去の姿からの検証がなされていないという点で、課題を抱えてきたことになる。
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