海外の数学者は関心を持つのに、日本では無視される「和算」
2020年08月21日
筆者は高校の数学教員になって間もないころに何か良い教材がないかを求めて和算に出合った。以来、「オタク」的に一人で調査研究を続けて半世紀。調べるほどに江戸時代の数学、とくに「算額」の魅力にはまり、世界の数学者たちとの思いがけない出会いも重ねてきた。世界では江戸時代の数学が高く評価されているのに、国内ではあまり関心を持たれていないのは誠に残念で、「制限時間もなく、数学の問題を考えて楽しむ」という文化が江戸時代にあったことをぜひとも多くの人に知ってほしいと思う。
和算といえば、関孝和(せきたかかず、1640?-1708)の名が思い浮かぶ人が多いかもしれない。彼をはじめとする和算家の多くはそろばんの名手であった。『塵劫記』が出てから多くの和算書が出版され、幕末の人気の和算書千葉胤秀編『算法新書』(さんぽうしんしょ、1830年)は和算全体を網羅した大部の書である。内容は現在の中学からの計算問題をはじめとして後半は大学レベルの楕円周の計算、すなわち楕円積分まである。同じ出版所「算学道場」から出版された内田久命編『算法求積通考』(さんぽうきゅうせきつうこう、1844年)は中学の数学で理解できる積分の解説書で、一番難しい例題は一般楕円体の表面積を直接に無限級数で表したものである。
算額とは、和算を勉強した人が感謝の気持ちとさらなる精進を願って問題を絵馬に記して神社仏閣に奉納したものである。この方法は本の出版よりも手軽であったため、多くの和算家が自分の力量を表現するのに利用した。算額を調べると、和算書だけから見える数学世界とは違って人間味ある江戸時代の人々の生き方が垣間見えてくる。それは現代の人々に指針を与えてくれる点がある。すなわち、江戸時代に普通の人々が日常生活で好きな数学解法を楽しんで人生を謳歌した事実である。旅する数学者を迎え入れ余暇として楽しんでいるところなど、実にうらやましい。
現存する最古の算額は
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください