新型コロナは「恐怖の感染症」ではない
安倍首相の辞任会見とともに動き出した対策の根本的な見直し
唐木英明 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長
8月28日の記者会見において安倍総理が突然辞任を表明し、大きな波紋が広がっている。その冒頭発言で総理が特に触れたのが新型コロナ対策の変更だった。

大型ビジョンに映し出された安倍晋三首相の記者会見=2020年8月28日、東京都新宿区、福留庸友撮影
国は新型コロナを感染症法の「指定感染症」とし、危険性が2番目に高いグループである「2類相当」として扱ってきた。しかしリスク管理の観点から言うと、新型コロナはもともと5類に分類されている季節性インフルエンザ(以下インフルと略す)と同等の感染症であり、これを2類として扱ってきたことには二つの重大な誤りがあった。それは「リスクの大きさに対応したリスク管理を行う」というリスクの公平原則と、「リスク管理が生み出す別のリスクに十分配慮する」というリスク最適化の原則に反していた点である。
標準的な感染症予防策だけで新型コロナ問題を解決しつつあるスウェーデンにならって、新型コロナをインフルと同等のリスク管理にすること。これが、現在の混乱を解決する道である。
1. 新型コロナは恐怖の感染症か?
新型コロナのリスクの特徴は、1月からの中国武漢市での感染状況によって早期に分かっていた。これについて東京都医師会の感染症危機管理対策協議会は2月13日に次のようにまとめている(要旨)。
新型コロナウイルス感染症の感染力、重症度、診断、治療について
① 感染力はインフルエンザと同程度かそれより弱いと言われています
② 重症度は、通常のインフルエンザなどと同程度と予想されます
③ 簡易的な診断方法が現時点ではありません
④ 治療薬はありません
⑤ 感染しても多くの方は症状が出ないか、少し長めの呼吸器症状で完治すると予想されます
⑥ 肺炎になった患者さんへの治療法は、他の肺炎治療と大きくは変わりません
⑦ 予防方法も「標準的な感染症予防策」で十分と言われています
要するに東京都医師会は新型コロナとインフルが同程度のリスクであると評価し、だからそのリスク管理も同程度で構わないと考えていたのだ。