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新型コロナは「恐怖の感染症」ではない

安倍首相の辞任会見とともに動き出した対策の根本的な見直し

唐木英明 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

 それから半年が経過した8月30日の時点で、このリスク評価を具体的な数字で検証してみる。日本ではインフルは冬季に集中し、感染者は年間に約1000万人、関連死を含む死者が約1万人発生している。一方、新型コロナは夏季にも発生し、その確定感染者は6万7000人弱、死者は1300人弱である(表1)。

拡大【表1】スペイン風邪、季節性インフルエンザ、新型コロナの状況

 この傾向がさらに半年間続くと、新型コロナの感染者数や死者は年間で2倍程度になると予測されるが、インフルよりずっと少ない。その他のすべての事項についても、東京都医師会の見解はいま見ても間違いはない。新型コロナは当初から5類相当にすべきであったということになる。

2. 「世界的情報感染」が作り出した恐怖

 ところが国は2月1日に新型コロナをずっと重大な感染症と判断し、2類相当とした。このような本来のリスク評価とは違う管理がされた大きな理由は、ウイルスに感染する前に、誤った情報に「感染」したためと推測される。日本だけでなく世界もそうだった。

拡大帰宅時間帯、マスク姿で歩く人たち=2020年6月24日、東京都新宿区、恵原弘太郎撮影
 WHOは2月2日の報告において、新型コロナは真偽を取り混ぜた情報の氾濫を引き起こし、人々はどの情報が正しいのか判断ができなくなっていると述べた。そしてこの現象を、インフォメーション(情報)とパンデミック(世界的感染症流行)の二つの言葉を合わせて「インフォデミック」と呼んだ。すなわち「世界的情報感染」であり、世界はこれに感染したのだ。

 1月初めから武漢では、不確実なネット情報の氾濫によりパニックに陥った市民が病院に殺到して医療崩壊が起こり、その悲惨な様子がネットを通じて世界に発信されていた。メディアの常として、珍しい悲惨な話や不条理な話は大きく取り上げられ、視聴者はそれを明日にも自分に起こりうると誤解する。武漢での特殊な出来事から「新型コロナは恐怖の感染症である」という実態とかけ離れたイメージが作られた。

 2月になると日本でも、横浜港に入港したクルーズ船内での集団感染の状況が詳細に報道された。韓国で感染が急拡大し、国内でも感染者が出始めた。北海道は休校措置を発表し、国も全国一斉休校を発表した。3月に入るとイタリアで感染爆発と医療崩壊が起き、13日には日本で特別措置法が制定された。専門家会議は医療崩壊を防止するためとして「3密防止」を呼びかけ、国民は「自粛」した。しかし感染者はさらに増加し、4月7日には特措法に基づく緊急事態宣言が発出されて大きな経済的被害が出た。

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筆者

唐木英明

唐木英明(からき・ひであき) 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを務めた。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。著書「不安の構造―リスクを管理する方法」「牛肉安全宣言―BSE問題は終わった」など。

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