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医療政策学から斬る「コロナ騒動」(上)

3つの衝撃と3つの失敗

長谷川敏彦 一般社団法人未来医療研究機構代表理事

拡大shutterstock.com
 この半年の「コロナ騒動」は国の医療政策や地域の健康づくりに関わってきた私にとって大変奇妙な光景であった。そこで「医療政策学」の視点から独自に分析研究した。有り難いことに、今日の情報社会では、世界最先端の知識を家にいながらインターネットやYouTubeで一瞬にして入手することが可能となっている。

 すでに様々な分野の専門家によって様々な貴重な発言がなされているが、政策においては領域間の意見が相矛盾するのが常識である。本稿ではできる限り多面的・横断的な見方による分析を試みた。まず分析研究を始めるきっかけとなった私の3つの「衝撃」を明らかにし、医療政策のプロセスの「失敗」「根拠」「評価」を課題ごとに整理し、それぞれ3つのポイントを提示する。これらを踏まえて最後に3つの「提案」をしたい。

 コロナ政策は現在進行形で、現時点での分析はまだ早いのかもしれない。しかし新たな感染症や自然災害など近々発生するかもしれない緊急事態の準備のためにも、現在の危機から脱出するためにも、敢えてこの分析を発表する。

Ⅰ 3つの衝撃

 テレビ、新聞、雑誌の報道を見ながら、コロナのような小さな課題にこれほどまでに右往左往していては、これからやってくる超ド級の大きな課題「人類が経験したことのない未知の高齢社会の構築」に日本は果たして対応できるのだろうかと、大変不安になった。高齢社会の建設には「人と人のつながり」が必須である。これを断ち切る政策を無神経にも強引に進め、若年者にも無配慮な政策が押し付けられている。

衝撃1 コロナドミノをもたらしたソーシャルディスタンスの拡大

 日本は2007年に65歳以上人口割合が21%を超える「超高齢社会」に世界で最初に入り、現在もさらに高齢者の割合が増え続けて世界保健機関(WHO)の定義さえない「人類未踏の高齢社会」に向かって独り歩んでいる。この人類史的社会実験には、人々が地域の中でつながり、お互いに歩み寄り助け合うこと、即ち地域包括ケアの推進が必要で、「社会距離の短縮」が必須となる。今回のコロナ対策として外国からの借り物の発想「ソーシャルディスタンスの拡大」そして、「三密の回避」が強引に進められたことで、これまで何十年もかけて積み上げてきた努力が水泡に帰しつつある。

 東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授は「社会とのつながり」を失うことをきっかけに、家に引きこもって気がめいり、食欲が落ちて栄養状態が悪化、運動不足で筋肉が減り、あげくの果ては身体を壊す一連の悪循環「高齢者の虚弱化ドミノ」を警告している(図1)。警告どおり、人と人の距離を遠ざけるコロナ政策はドミノを引き起こした。人とまちづく人とまちづくり研究所の堀田聡子代表理事による緊急調査(5月12〜22日)でその実態が明らかとなった。「しゃべるな」「触れるな」「マスクで顔隠せ」「社会的距離を取れ」というゆがめられた価値観の下ではいかなる高齢社会もあり得ない。

拡大図1 高齢者の虚弱化ドミノ
拡大虚弱化ドミノが実際に起きていたことを示す調査結果。
報告書

衝撃2 若者を踏みにじるコロナ政策

 1990年のバブル崩壊以降いわゆる「失われた30年」に日本のGDPはほとんど伸びていない。そのツケを日本の若者は非正規雇用、低賃金、低資産として払わされてきた。コロナ政策による倒産、失業の波に襲われているのもこの若年層である。特に団塊ジュニアは、制度による支えも期待できずに老いることになる戦後初めての世代で、間違ったコロナ政策により、制度に代わる貴重な社会的資本「社会距離の短縮」さえも奪われようとしている。

拡大図2 感染者と死亡者の年齢構成
 負担は子どもたちにも及んでいる。
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筆者

長谷川敏彦

長谷川敏彦(はせがわ・としひこ) 一般社団法人未来医療研究機構代表理事

15年の外科医生活、ハーバード大学公衆衛生大学院での活動を経て1986年に旧厚生省に入省、「がん政策」「寝たきり老人ゼロ作戦」を立案。国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長、国立保健医療科学院政策科学部長として「健康日本21」「医療計画」「医療安全」等に関与。日本医科大学医療管理学主任教授を経て、2014年に未来医療研究機構を設立。その後、過去40年間の日本の医療制度改革の歴史分析を英語で出版、日本医師会公衆衛生委員会にて健康の新定義(2018年)、健康格差の答申(2020年)に参与。

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