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医療政策学から斬る「コロナ騒動」(中)

世界各国のコロナ政策の現時点での評価

長谷川敏彦 一般社団法人未来医療研究機構代表理事

拡大イスラエルのコロナ治療中核病院。ICU内の医師たちは、移動型ロボットを通じ指示を受けていた=2020年5月4日、シェバメディカルセンター、高野遼撮影

Ⅲ 3つの根拠

 政策は思いつきで立案してはならない、空気で推進してはならない。根拠に基づく医療政策(evidence based health policy)が常識である。コロナ政策に必要な3つの重要な根拠「死亡率」「死亡予測数学モデル」「感染経路」については、専門家の分析、提言が誤っており、結果、国民の間に誤解が広がり、恐怖と不安の源泉になっているように思われる。

根拠1 死亡率——新たな情報で改まる当初の誤解

 新型コロナウイルス感染症は、普通の風邪と変わらないと主張する医師も多い一方、一部の専門家は非常に恐ろしい病気だと考えており、その恐怖が一般人に伝播し固定化されつつある。

拡大図6 立場によって違って見えるコロナの怖さ

 その恐怖のからくりは、国立国際医療研究センターの忽那賢志医長(国際感染症対策室、感染症専門医)が作成した感染の発症から死亡までの流れ図を用い、データ分析すると明らかになる(図6)。まず病院の臨床家は入院を必要とする患者即ち中等症以上を全体像として見ており、4分の1が重症化し半分が死亡するので12%もの患者が死亡する大変恐ろしい病気の印象を受けうる。一方、疫学者は、発症者数を全体像としてとらえ、2.4%が死亡すると考えるので、やはり普通の風邪より数十倍も死亡率が高い印象となる。この数字はWHOが3月3日に発表した症例死亡率「死亡率3.4%」とほぼ一致することとなる。

 しかし、無症状者を含めた感染者を分母にする「罹患死亡率」を計算すると、死亡率は大きく下がる。最近では各国の抗体検査から、無症状者は90%や95%とされており、それらを合わせて分母とした死亡率は0.08〜0.48%程度で、一般的な風邪、季節性インフルエンザと同じか少し高い程度である。

拡大図7 年齢別症例死亡率(日本・中国・伊アリア)

 日本、中国、イタリアについて調べた年齢別症例(治療を受けた感染者)死亡率を見ると、3国とも50歳未満では死亡率がほとんどゼロであるのに対し、50代で増え始め、年代を追うごとに増える(図7)。高齢者の死亡率は比較的イタリアが高いが、日本と中国は大差ない。日本では20代の糖尿病の力士や40代の俳優などの死が伝えられたが、どのような疾患にも極まれな例外はある。

 また、中国の患者4万4672人のデータ分析によると、持病のない人の死亡率が0.9%なのに対し、心血管疾患の人は10.5%と約12倍になっている。次いで糖尿病7.3%、慢性呼吸不全6.3%、高血圧6%、がん5.6%。ほかに抗がん剤治療中など免疫低下状態のある人もハイリスクである。重症者の一部は急激に悪化する例があり、肺の病変だけでなく、血管内微小血栓形成が主因とされる。

 以上をまとめると、立場とリスク、この2つの要因によって死亡率の印象が異なっていたのである。国民全体にとってあまり死亡率は高くないが、国民の中に死亡率の高い集団が存在することになる。

根拠2 死亡予測数学モデル――世界を恐慌に追いやったファーガソン論文

 100年前のスペイン風邪は、まだウイルスの存在も発見されていない時代に、若者を中心に5000万から1億人の命を奪い、口から血を吐いて死ぬなどの症状も恐ろしく、世界がパニックに陥るのは当然であった。しかし

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筆者

長谷川敏彦

長谷川敏彦(はせがわ・としひこ) 一般社団法人未来医療研究機構代表理事

15年の外科医生活、ハーバード大学公衆衛生大学院での活動を経て1986年に旧厚生省に入省、「がん政策」「寝たきり老人ゼロ作戦」を立案。国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長、国立保健医療科学院政策科学部長として「健康日本21」「医療計画」「医療安全」等に関与。日本医科大学医療管理学主任教授を経て、2014年に未来医療研究機構を設立。その後、過去40年間の日本の医療制度改革の歴史分析を英語で出版、日本医師会公衆衛生委員会にて健康の新定義(2018年)、健康格差の答申(2020年)に参与。

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