桜井国俊(さくらい・くにとし) 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人
1943年生まれ。東京大学卒。工学博士。WHO、JICAなどでながらく途上国の環境問題に取り組む。20年以上にわたって、青年海外協力隊の環境隊員の育成にかかわる。2000年から沖縄暮らし。沖縄大学元学長。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
いま求められる「逆格差論」の復興
今回のコロナ禍は、日本の医療サービスがいかに他国に比して貧弱であるかを白日の下に曝した。新自由主義という名の市場原理主義の下、日本では自助が強要され、公助が極端なまでに削り込まれてきたのである。そして共助も、東京一極集中を含む急速な都市化により、急速に痩せ細ってきた。
安倍後継をめぐる大騒ぎが進行中の9月2日、渡具知裕徳さんが亡くなった。辺野古新基地の地元として今や全国にその名を知られている名護市は、復帰前の1970年8月1日、名護町以下5町村が合併して生まれた。その名護市の初代市長を務めたのが渡具知さんである。
安倍政治の継承を掲げる菅内閣は、「辺野古が唯一」を堅持すると明言している。辺野古新基地の地元の名護市において、地元中の地元の久辺三区への直接財政支援を名護市の頭越しに行い、地方自治を無視し地域分断を図ってきたのが安倍政権の菅官房長官であった。さらなる地域分断に向け強力なテコ入れが菅内閣によって進められることを沖縄は覚悟しておかねばなるまい。
そうした中、いま改めて沖縄に求められるのが逆格差論の再評価であろう。4期16年にわたって名護市の発展につくした渡具知裕徳さんたちが唱えたのが逆格差論である。農村地域と都市が競争するのではなく共生・共存する、都市部から失われた豊かな自然を生かし、産業を活性化させ、市民参加でまちづくりを進めるというのがその考えであった。上から目線の自助・共助ではなく、市民の中から湧き上がる自助・共助を目指したのである。