昨年の的中筆者が今年も大胆に 長寿研究で注目されるたんぱく質TORが有力
2020年09月28日
今年のノーベル賞発表が10月5日から始まる。
論座恒例の受賞者予想記事で昨年、ノーベル医学生理学賞は「細胞の低酸素応答の仕組みの発見」のグレッグ・セメンザ氏、ピーター・ラトクリフ氏、ウィリアム・ケーリン氏が受賞する可能性が高いと書いた(「大胆予想:医学生理学賞は『低酸素応答』の3人」2019年09月30日)。的中して3氏が受賞。その後、予想の種明かし記事(「ノーベル賞予想的中の種明かし」2019年10月11日)を書いたものの正直言って予想は難しいものだ。
ノーベル医学生理学賞で今年の有力候補は(1)エピジェネティクス(2)ラパマイシン標的たんぱく質(TOR)の二つとみている。
エピジェネティクスについては2年前に論座で予想記事を書いた(「ノーベル医学生理学賞はエピジェネティクスに注目」2018年09月27日)。遺伝情報をつかさどるDNA塩基配列が変化していないのに子孫に安定的に引き継がれる特質で、染色体が変化して起きるとされる。がんや糖尿病などの病気にエピジェネティクスが関与するとして注目されている。
今回はTORについて大胆に予想したい。
TORは細胞の栄養状態に応じて成長や増殖を調節するたんぱく質だ。いわば、細胞の栄養センサー。酵母から哺乳類までさまざまな生物の細胞に存在する。
最初、酵母で見つかったTORは「トア」と読まれ、哺乳類のTORをmTOR(エムトア)と呼ぶ。「哺乳類の」ではなく「機械的な」という意味でmTORと呼ぶこともある。この記事では煩雑さを避けるためにmTORを含めてTORと総称する。
最近盛り上がっている話題は長寿関連遺伝子としてのTORだ。
9月16日に日本語版が刊行されたばかりで、米ハーバード大学教授が老化のメカニズムを解説した話題の新刊書『LIFESPAN(ライフスパン) 老いなき世界』(デビッド・A・シンクレアら著 東洋経済新報社)では長寿関連遺伝子のひとつとしてTORを作る遺伝子群を紹介し「ノーベル生理学・医学賞の最有力候補との呼び声が高い」と賞賛している。
ラパマイシンという薬を使うとTORの働きを抑えることができる。ショウジョウバエやマウスを使った動物実験によってラパマイシンには寿命を伸ばす働きがあることがわかってきた。たとえば2009年に科学誌ネイチャーに発表された米国の論文によると、人間に換算すると60歳に相当する中高年マウスにラパマイシンを含む餌を与えたところ生存期間が雌で14%、雄で9%延びた。
ラパマイシンのようにTORの働きを抑えて安全に使える薬ができれば寿命延長に結びつくのではないかとみて世界中で研究が続いている。
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