「僕は嫌だ」と言えない「僕が嫌だ」
2020年10月09日
『気候危機を救う「3.5%」は誰なのか? 上』から続く。
あれから1年。
「拘束されているときに『不協和音』の歌詞がずっと頭の中で浮かんでいました」という、香港の民主活動家、周庭(アグネス・チョウ)さんの一言を耳にした時、私の記憶は一瞬のうちに1年前の夏に飛んだ。
「嫌だって言いたいです」。自らも、そう口にした瞬間をありありと思い起こした。
抑圧への抵抗。搾取からの脱却。置かれた状況は異なれど、私たちは例外なく、本来享受し得るはずの自由や正義というものを侵されている。ただ、その不条理に、これ以上屈してたまるものかと、威勢よく立ち上がるか否かは、私たち一人ひとりに委ねられている。
自分はあのとき、自分自身でもまだよくわからない、でも何かとても強い感情に突き動かされていた。何を英雄気取って、狂ってるんじゃないか、頭おかしいんじゃないのかと馬鹿にされても、私にとってはそれが真実だった。
「わたしたちは革命について歌ったのだから、革命を歌ったのだから、革命をしなければならない」(松田青子著『持続可能な魂の利用』、中央公論新社)
世の「おじさん」から自由になるためにあらがう、女性たちの物語のある一節だ。先日、たった一日で読み切るほど魅せられた本には、痛快なフレーズの数々が並んでいた。
物語には、これまでのアイドル体系と異なり、反抗的な歌詞に難易度の高いダンスを披露する、異端のアイドルグループが登場する。物語の主人公は、アイドルグループのセンター、××という圧倒的存在にどっぷりとはまっていく。そして物語の終盤、あろうことか、××と××のファンである主人公は、楽曲の意図をくみ、その歌の世界を現実に生き始め、ついには「反逆」を歌詞通り実行してしまうという、驚きの結末が待っている。
文中、形容の仕方を読めば、そのアイドルグループが実在の、欅坂46をモデルにしているということは、すぐさま思い当たる。あくまでフィクションの世界として描かれつつも、その核に貫かれているのは、すがすがしく生々しいノンフィクションだった。
ページをめくるたび、私は胸が高ぶった。キャラクターたちが文字通り、自らの生に体当たりで当たって砕けていたから。その潔さに身体が沸き立つのを感じた。変えると言ったら変える。倒すと歌ったのなら、倒す。その一点張り。他の選択肢も手段もありえない。
他の国のアイドルグループの歌詞を拘束された状況に重ね合わせ、「最後の最後まで抵抗し続ける」道を生き抜く女の子がいるなら、私は、スウェーデンの女の子の言葉を額面通りに受け取り、「僕は嫌だ」と社会に反旗を翻す女の子だった。
良く言えば「感受性が豊か」、悪く言えば「クレージー」なのかもしれない。ただ、「革命」をしなければいけないとき、その鐘を鳴らす、「異端者」となり得ることはできるかもしれない。
日本でもようやく認識されるようになってきた〝気候危機〝は、元々待ったなしだったはずなのだが、「社会の大転換」が必要だと訴えられてきながら、私たちの日常はそう簡単に変わることはなかった。
2020年、世界はコロナ禍に直面し、一時的な大転換はもたらされたと言えるかもしれない。ただ、それはまだ「新しい生活様式」と一言にまとめてしまえるくらいの変化に過ぎないとも言えるかもしれない。二酸化炭素(CO₂)は減ったが、これだけの削減量をたとえ毎年実行しても、パリ協定を達成できる可能性は低いと言われている。
「社会の3.5%の人が参加すると、ムーブメントは成功する」という調査結果があるそうだ。
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