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ノーベル化学賞 日本の研究が受賞する可能性は

国内最有力の業績から推測するストックホルムまでの「近さと遠さ」

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(西部報道センター)

 ノーベル賞の科学分野は毎年10月初旬の月曜〜水曜にかけて、医学生理学・物理学・化学の順に日本時間の午後6時半ごろから発表される。メディア各社の科学記者たちは、この日程から逆算して数週間前から準備に入る。いよいよ発表が近づけば、受賞予想を記事にするのが恒例だ。

 予想と言っても、べつに「アタり/ハズれ」の賭博に興じているわけではない。日ごろは縁遠くも見られがちな最先端科学の世界を、多くの人が身近に感じられる貴重な機会になればと、受賞者予想というかたちをとって伝えている。少々のお遊びの趣向は凝らしていても、根っこにあるのはそんな使命感めいた思いでもある。

物理賞は当たっても、化学賞は…

 そんなわけで今年は自分が論座の予想を担当する。とはいえ化学賞を分担すること自体は「ハズれくじ」だ。医学生理学賞や物理学賞ならいざしらず、化学の受賞者を的中させるなんて無理っぽい話だから。

ノーベル化学賞は10月7日に発表されるが…
 実際、持ち回りで執筆する朝日新聞の予想記事では、自分は2017年に物理学賞を担当したが、はっきり言って簡単だった。この年、科学記者ならだれだって同じ予想をしたに決まっている。「重力波の観測」だ。もちろん自分もそう書いて、そして当たった。な〜んの自慢にもならない。

 医学生理学賞については昨年、先輩記者の浅井文和さんがこの論座で予想を的中させた。浅井さんは後日談も公表し、謙虚な筆致で裏話をつづっている。だが化学賞はなかなかそうはいかない。ならば今回は、日本の最有力候補の紹介を通じて、ノーベル化学賞への私たちなりのアプローチ方法や見方について触れてみたい。

可能性を見分けるポイントは

 各社の化学賞担当記者たちがもっとも注目しているのは、東京大の藤田誠教授だろう。同大の1200人を超す教授陣のなかで、わずか3人目となる「卓越教授」の称号を昨年、授与された。いま63歳だから間もなく定年だが、特例的に75歳まで雇用が認められる。さらに東京大は「藤田ナノサイエンス基金」を設立して、研究を支える姿勢を打ち出した。

 大学をあげて後押しされる藤田教授。その主な業績は、分子が自発的に内部空間をもった立体構造つくりだす現象を見つけたこと、そしてこれを応用して試料を結晶化させずに構造解析できる「結晶スポンジ法」を開発したことである。たんぱく質などの複雑な分子がどういう構造をしているかを解明するのは極めて難しい作業だが、結晶スポンジ法はこの構造決定の手順を大幅に短縮できる画期的な新手法とされている。

 なぜこの業績がノーベル賞に近いと見られるのか。とくに重視されるのは次の3点だろう。

藤田誠教授の「結晶スポンジ法」のしくみ

■強みのポイント
 ①ウルフ賞を受賞
 ②論文の被引用数の多さ
 ③海外研究者の高い評価

 半面、難しいと考える理由もある。

■懸念されるポイント
 ①実用性の幅広さは?
 ②受賞分野のサイクルは?
 ③ライバルの存在は?

 ではそれぞれのポイントについて、見ていきたい。

最強タッグの「ウルフ賞&引用賞」

 まず強みの3点から。ノーベル賞には前哨戦がある。ウルフ財団が学術6分野に1978年から授与しているウルフ賞は、その最たるものの一つだ。とくに物理と化学の両部門は権威がある。化学賞では野依良治氏がウルフ賞を受賞した直後、ノーベル賞を受けた。藤田教授も2018年に受賞している。また論文の被引用数も重要だ。他の研究者がどれだけ重視しているかの指標で、藤田教授は今年、この数値に基づく「クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞」を受けた。いわば「最強の組み合わせ」の2賞を制したと言える。

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