黒沢大陸(くろさわ・たいりく) 朝日新聞論説委員
証券系シンクタンクを経て、1991年に朝日新聞入社。社会部、科学部で、災害や科学技術、選挙、鉄道、気象庁、内閣府などを担当。編集委員(災害担当)科学医療部長、編集局長補佐などを経て、2021年から現職。著書に『コンビニ断ち 脱スマホ』『「地震予知」の幻想』、編著に「災害大国・迫る危機 日本列島ハザードマップ」。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
予報の「空振り」を、「避難訓練」や「けしからんこと」だけで終えないために
台風10号が近づいてきた9月上旬、気象庁は「特別警報級の勢力」に発達する恐れがあるとして最大級の警戒を呼びかけた。結局、特別警報が発表されるほどの風雨とはならなかった。なぜ、予想が外れたのか、事前の騒ぎについての評価、予報の「空振り」と「見逃し」について、20年前の気象庁担当の経験やその後の動きも含めて考えてみたい。
気象庁は、台風などで気象災害が想定される場合、事前に記者会見を開いて警戒を呼びかけている。台風10号については、9月2日木曜日の呼びかけの強さが際立った。「今後特別警報級の勢力まで発達し、6日から7日にかけて、奄美地方から西日本にかけて接近または上陸する恐れがあります」として、週末を迎える前に台風への備えを終わらせるよう促した。かなり強い言葉だ。3日には国土交通省の水管理・国土保全局と共同で、暴風や河川の増水・氾濫についての警戒を促し、共同の呼びかけは4日、5日にも続けた。
ところが、6日朝に呼びかけは一変する。気象庁は「台風要因の特別警報の発表の可能性は低くなりました」と言及したうえで、非常に強い勢力を維持しているので、引き続き、大雨、暴風、高波、高潮に最大級の警戒を呼びかけた。報道機関も気象庁の呼びかけを伝えて、特別警報の可能性が低くなってからも、油断しないように促し続けた。
なぜ、予報が「外れた」のか。台風の勢力が急に弱まったのは、当初、少し前に通過した台風9号によって海面がかき回されて、深いところから水温が低めの海水と混ざったためだと推定され、ネットでも話題になった。海面水温が高いから台風が強いまま襲来するという事前の説明もあって説得力があった。
気象庁は16日に、「台風10号における予報の検証(速報)」を発表した。検証よると、海面水温は最大の要因ではなかった。スーパーコンピューターで天気予報を計算させる「数値予報モデル」では、海面水温データは前日のものを使っているが、検証で水温が低いデータを使って計算してみると、台風の発達を抑える効果はあるものの限定的だった。それよりも東シナ海から台風に乾燥した空気が流入したことなどが台風の勢力抑制に影響したと結論づけた。台風が予想よりも早い速度で北上したことで強い雨は長時間続かず、数値予報を統計的に補正する段階でも過大な予想をしたことも影響して、予報とは異なる結果になってしまった(朝日新聞デジタル「台風10号、なぜ勢力低下?」)。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?