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コロナが基礎科学にもたらす変革

民主化とバーチャル交流の拡大が進むなか、日本の足を引っ張る著作権法制

大栗博司 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長 、 カリフォルニア工科大学教授 ・理論物理学研究所所長

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行のため社会活動が大きく制限されている。私がカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の機構長を務めている東京大学でも、理論物理学研究所所長を務めているカリフォルニア工科大学でも、2020年春にはすべての授業がオンラインになった。また、入構制限のため研究活動も影響を受けた。

 こうした制限は徐々に緩和されつつあるが、自宅待機などの間に急速に広まったデジタル革新、特にバーチャルな世界の開拓は、コロナの世界的流行が収束しても社会のありかたに不連続な変化をもたらすであろう。そこで、私たち研究者がコロナにどのように対処してきたかを紹介し、そこで学んだことがポストコロナ社会にどのように生かせるかを考えてみたい。

若手の苦難を軽減し、日本にとってのチャンスを生かす

建物3階のバルコニーに黒板を設置してつくった屋外交流スペース。ここなら感染の危険を減らして議論ができる。
 研究所の管理・運営に責任を持つ者として今最も気になっていることは、研究者、特に若手研究者が置かれた状況である。研究への支障は言うまでもないが、大学院生やポスドクなどの短期雇用の研究者にとっては、次の職も心配だ。欧米の大学では、予算の見通しが立たないので教員の公募を控えてるところが多い。また、国際会議などに出席して自分の研究を広く知ってもらう機会がなくなってしまったことも、若手には痛手である。国際会議の中にはウェブ上で開かれているものもあるが、日本在住の研究者は、この記事の後半で紹介する日本特有の問題のため、とりわけ不利な状況にある。このため、Kavli IPMU では、メンターによる大学院生やポスドクの状況把握とその対応を強化し、また、若手研究者が研究成果について情報発信できる機会を増やしている。

 一方で、日本にとって有利な状況もある。これまでのところ、日本は欧米諸国に比べて新型コロナウイルス感染症の流行抑制に成功しているので、海外のトップレベルの研究所の研究者からも「日本に行って研究がしたい」という声を聞いた。「これは海外から才能のある研究者を呼び寄せるチャンスだ」と思い、Kavli IPMUで緊急にいくつかのプログラムを立ち上げた。

 海外には、次の職が決まっているのに、渡航制限などのために職に就けずに宙ぶらりんになっている優秀な大学院生やポスドクが何人もいる。そこで、そのような人を次の職に就けるまで短期で雇用するプログラムを始め、「ポスドク・アンパッサン」と名付けた。アンパッサンというのはチェスの用語で、通過途中の歩兵を捕獲することを意味する。このプログラムのおかげで、以前にKavli IPMUのオファーを断ったような優秀な人も「捕獲」することができた。

 また、海外の一流研究機関の教授やポスドクで、休職してKavli IPMUに来て、より安全な環境で研究を続けたいという人を受け入れる「セーフヘーブン・フォー・スカラー」というプログラムも始めた。

 Kavli IPMUでは、コロナ前から、研究者が複数の機関と契約し、合意された従事比率に基づき就労する「クロスアポイントメント」を行ってきた。これは東大内では初めての試みであった。我々の成功によって、この制度は学内、さらに日本の他大学にも波及した。私自身も、機構長の任期中は、東大とカリフォルニア工科大学のクロスアポイントメントになっている。コロナ時代になり、様々な業務がバーチャル空間で行えることが明らかになったので、今後は「バーチャル・クロスアポイントメント」のような雇用形態も考えていくべきだと思う。

ウェブ会議システムで地理的バリアがなくなった

Kavli IPMUでは.ティータイムに研究員がオープンスペースに集まって誰とでも自由に議論してきた。コロナ時代はバーチャル空間でティータイムを試みている(MozillaのHubsを使用)。
 コロナ時代になって、Zoomのようなウェブ会議システムを使う機会が増えた読者も多いだろう。コロナ前から、私のような研究者たちは、遠隔地の共同研究者との議論などのために、ウェブ会議を日常的に利用していた。それが、今やセミナーや国際会議などもウェブ上で開かれるようになった。

 私自身も、

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