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「法律論」「学問の自由」をはるかに超える大問題

学術会議の会員任命拒否には誠実な説明が必要だ

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 10月1日、日本学術会議が推薦した会員候補のうち6名を菅総理が任命拒否したことが明らかとなった。言いようのない閉塞感と無力感を感じてしまう。各社の新聞、そしてこの論座においても、直ちに多くの論評がなされている。

拡大菅首相宛ての要望書を了承した学術会議の総会=2020年10月2日、東京都港区
 私は2011年10月から17年9月までの6年間、日本学術会議第三部(理工系)の会員であり、現在は連携会員を務めている(学術会議は210名の会員に加えて、約2000名の連携会員からなる。6年間の任期を終えた会員は、次の6年間は辞任しない限り自動的に連携会員となる)。ここでは自分の学術会議の経験を踏まえた上で、意見を述べさせていただきたい。

 まず、学術会議に関して寄せられているいくつかの疑問に答えておこう。

1. 学術会議はそもそもどのような活動をしているのか

 日本の学術全般に関して数多くの意見発信を行っている。特に政府からの依頼への答申や回答、さらにはそれにとどまらず政府や社会に対する提言など多岐に渡っている。これらは、特定の学協会だけに限られた意見の寄せ集めではなく、多様な学術分野を俯瞰した広い見地から日本社会の現状解析と将来展望に基づいたものである。

 学術会議は3年間を一期としており、例えば2020年の場合、第24期の最後である9月末までに、約70の提言が公表されている。それらはすべて学術会議のサイトから入手でき、その一覧、さらには具体的な内容を読んでいただければ学術会議の活動をより良く理解していただけることと思う。

2. 会員選出の方法は適切なのか

 かつてはそれぞれの学協会の直接選挙で選ばれていた時期もあったが、その結果、狭い意味での学会代表の集まりとなる弊害が顕在化してきた。現在の規定では、学術会議内に選考委員会をつくり、そこで様々な議論を積み重ねて次期の会員および連携会員候補を推薦することになっている。また、会員は2期6年の任期で再選不可かつ70歳定年、さらに学術会議の多様性を担保するために地域およびジェンダーバランスに厳しい制約条件を課している。これらの条件を直接選挙だけで実現することは難しい。

拡大学術会議の幹事会後、取材に応じる梶田隆章会長=2020年10月3日、東京都港区
 とはいえこの選考方法がベストかどうかは自明ではない。しかし、そのやり方だけをみて、権威主義的あるいは非民主的だと批判するならば短絡である。実際、私が所属する物理学委員会天文学・宇宙物理学分科会では、上記の多様性を満たすように現会員・連携会員が様々な観点から議論を尽くして次期候補を挙げ、その結果を、異なる分野からの推薦を集約した上述の選考委員会でのさらなる議論に託している。このように少なくとも私の知る範囲では、極めて適切な選考がなされているものと確信する。

3. 学術会議はなぜ内閣府のもとの組織なのか

 これはある程度歴史的なものであろう。政府が、学術会議の独立性と中立性を尊重する限り、内閣府内からの勧告や提言であればそれなりの重みをもつ。そして、政府が何らかの判断を下す際に、学術的な観点からのフィードバックは不可欠である。過去の政府と学術会議の間では、互いの尊重と緊張関係は最低限守られてきた。逆に言えば、現在のシステムは、政府が学術界の独立した意見に誠実に耳を傾けた上でどのように政治的判断を加味するかという見識の信頼関係を前提としている。今回を契機にそれが揺らいでしまうような事態になれば、学術会議を内閣府内におくという関係性を再考する必要があるかもしれない。

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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に、『人生一般二相対論』(東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『この空のかなた』(亜紀書房)、『情けは宇宙のためならず』(毎日新聞社)、『不自然な宇宙』(講談社ブルーバックス)などがある。

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