学術会議の会員任命拒否には誠実な説明が必要だ
2020年10月05日
10月1日、日本学術会議が推薦した会員候補のうち6名を菅総理が任命拒否したことが明らかとなった。言いようのない閉塞感と無力感を感じてしまう。各社の新聞、そしてこの論座においても、直ちに多くの論評がなされている。
まず、学術会議に関して寄せられているいくつかの疑問に答えておこう。
日本の学術全般に関して数多くの意見発信を行っている。特に政府からの依頼への答申や回答、さらにはそれにとどまらず政府や社会に対する提言など多岐に渡っている。これらは、特定の学協会だけに限られた意見の寄せ集めではなく、多様な学術分野を俯瞰した広い見地から日本社会の現状解析と将来展望に基づいたものである。
学術会議は3年間を一期としており、例えば2020年の場合、第24期の最後である9月末までに、約70の提言が公表されている。それらはすべて学術会議のサイトから入手でき、その一覧、さらには具体的な内容を読んでいただければ学術会議の活動をより良く理解していただけることと思う。
かつてはそれぞれの学協会の直接選挙で選ばれていた時期もあったが、その結果、狭い意味での学会代表の集まりとなる弊害が顕在化してきた。現在の規定では、学術会議内に選考委員会をつくり、そこで様々な議論を積み重ねて次期の会員および連携会員候補を推薦することになっている。また、会員は2期6年の任期で再選不可かつ70歳定年、さらに学術会議の多様性を担保するために地域およびジェンダーバランスに厳しい制約条件を課している。これらの条件を直接選挙だけで実現することは難しい。
これはある程度歴史的なものであろう。政府が、学術会議の独立性と中立性を尊重する限り、内閣府内からの勧告や提言であればそれなりの重みをもつ。そして、政府が何らかの判断を下す際に、学術的な観点からのフィードバックは不可欠である。過去の政府と学術会議の間では、互いの尊重と緊張関係は最低限守られてきた。逆に言えば、現在のシステムは、政府が学術界の独立した意見に誠実に耳を傾けた上でどのように政治的判断を加味するかという見識の信頼関係を前提としている。今回を契機にそれが揺らいでしまうような事態になれば、学術会議を内閣府内におくという関係性を再考する必要があるかもしれない。
ちなみに、学術会議に約10億円程度の税金が使われていることを問題視する意見が散見されるが、これは世界的にみて決して多い金額ではない。例えば全米アカデミーズは約230億円だとのことである。それ以外の各国との比較も参照のこと。
ただし、学術会議を完全に政府と独立な組織にすることには同意しない。その結果、学術界からの意見が適切に政府に届かなくなり、一部の都合の良い意見だけを学術界の総意であるかのように操作されてしまう危険性が懸念されるからだ。そして、今回の問題はまさにそれが政府の意向として起こりつつあることを示している。
以上をまとめれば、学術会議の活動が社会にあまり認知されていなかった点については、広報活動を含めて改善が必要である。また、組織の体制についても検討すべき余地は残っている。しかしながら、学術会議が社会的に実際に重要な役割を果たしていることは確かであるし、そこで得られた結論のみならずそれに至る過程での議論を含めてホームページ上で丁寧な文書として公開されていることは強調させていただきたい。
さて、今回の学術会議会員任命拒否問題の本質を、どのように位置づけるかについては様々な解釈がありえる。また
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