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予想的中(昨年の予想ですが):化学賞は今年こそゲノム編集技術ではないか

細菌や古細菌(アーキア)が持つ免疫能力を利用した画期的な手法

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 2020年ノーベル化学賞は、ゲノム編集技術を開発したジェニファー・ダウドナさんとエマニュエル・シャルパンティエさんが選ばれた。2019年にこの2人の受賞を予想した記事をここに再掲する。

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 昨年は「化学賞はどうせ当たらないのだから、気楽に予想する」と開き直り、「生物無機化学への貢献」で米国カリフォルニア工科大学のハリー・グレイ教授と、マサチューセッツ工科大学のスティーブン・リパード教授と予想した。はい、「どうせ当たらない」という予想が当たりました。

「方法の開発」を高く評価する化学賞

 受賞したのは、「酵素の指向性進化法」のフランシス・アーノルド米国カリフォルニア工科大学教授と「ペプチドと抗体のファージディスプレイ法」のジョージ・スミス米国ミズーリ大学名誉教授と英国MRC分子生物学研究所のグレゴリー・ウィンター博士の3人。「生化学分野だろう」という予想はかろうじて当たった。

 前者は、細菌のDNAを次々と突然変異させて目的の化学物質(酵素)を作らせる方法であり、後者はバクテリオファージと呼ばれる細菌に感染するウイルスを利用して、これまた目的の化学物質(ペプチドや抗体)を作らせる方法である。

 「方法の開発」というのは、ノーベル化学賞では強いと改めて思う。「新しい化学物質の発見」よりも、「それを発見できる方法の開発」が高く評価される傾向があるのだ。島津製作所の田中耕一さんの受賞も「生体高分子の質量分析法」という方法の開発が評価されてのことだった。

 さて、そうした傾向を考慮したうえで今年の受賞者を占うと、さすがにそろそろゲノム編集技術が選ばれるのではないかと思う。これは大変パワフルな研究手法で、2012年に論文が発表されてから瞬く間に世界中に広がった。すぐに「ノーベル賞間違いなし」という声が出て、ジェニファー・ダウドナ米国カリフォルニア大学バークレー校教授とエマニュエル・シャルパンティエ独マックス・プランク感染生物学研究所所長は2015年に生命科学ブレークスルー賞(ロシアの投資家ユーリ・ミルナー氏やFacebook創業者マーク・ザッカーバーグ氏らが2013年に創設)を受け、2016年にはガードナー国際賞(このときはフェン・チャン米国マサチューセッツ工科大教授と共同受賞)、2017年には日本国際賞と、権威ある賞を次々受けている。残っているのはノーベル賞だけ、と言っていい。

日本国際賞授賞式で天皇、皇后両陛下と握手を交わすジェニファー・ダウドナ氏(左)とエマニュエル・シャルパンティエ氏=2017年4月19日午後、東京都千代田区の国立劇場、外山俊樹撮影

特許をめぐる争いは

 ノーベル賞委員会がこれまで選ばなかったのは、特許をめぐる争いがあったからではないかと推察される。チャン教授は、

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