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「ブラックホール」でまとめたノーベル物理学賞

理論家ペンローズの並外れた業績と、「謎」を「実在」に転換させた長年の天文観測

真貝寿明 大阪工業大学教授(相対性理論、宇宙物理学、天文学史)

イラストはNASA提供
 2020年のノーベル物理学賞は、ブラックホールの研究業績をテーマとして、英オックスフォード大のロジャー・ペンローズ(89)、独マックスプランク研究所のラインハルト・ゲンツェル(68)、米カリフォルニア大ロサンゼルス校のアンドレア・ゲズ(55)の3氏に贈られると発表された。贈賞理由は、ペンローズは「ブラックホール形成が一般相対性理論におけるごく自然な帰結となることの発見に対して」、ゲンツェルとゲズは「天の川銀河の中心に超大質量なコンパクト天体を発見したことに対して」となっている。

 物理学賞は、ここのところ、宇宙・素粒子分野と物性物理分野が毎年交互に選ばれてきた。昨年は宇宙分野だったため、私は(他の多くの方と同じように)今年は宇宙以外の分野を想定していた。個人的には光格子時計に期待していて、学生にもその説明を発表の前週にしていたところだ。発表中継をインターネットで見ていて、まず、分野が宇宙だと知って驚き、さらに純粋な理論研究者であるペンローズが受賞したとわかり、想定外の嬉しさを隠せない。ここでは、ペンローズの業績を中心に紹介しながら、ブラックホール研究の歴史を振り返ってみたい。

ブラックホールにアインシュタインは拒絶反応を示していた

日米欧の研究チームが2019年4月に発表した、M87銀河のブラックホールの画像。黒い穴の部分がブラックホール=©EHT collaboration
 質量の大きな星が燃え尽きると、最終的には中性子の塊(中性子星)か、ブラックホールになると考えられている。ブラックホールとは、重力が強すぎて、光でさえも抜け出せない領域のことである。昨年4月には、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)のチームが、M87銀河の中心にある「黒い穴」の撮影に成功したことを発表し、話題となった。

 強い重力場のふるまいを描くのは、アインシュタインの一般相対性理論である。この理論は、重力の正体を「空間のゆがみ」で説明し、時間も空間も絶対的なものではなく、伸びたり縮んだりすることを結論する。理論的な整合性を突き詰めて得られた「アインシュタイン方程式」から導かれることになるのは、ブラックホール・膨張宇宙・重力波の存在といった現象である。しかし、アインシュタイン自身がこの3つのいずれにも当初拒絶反応を示したことは面白い。

 一般相対性理論が発表された直後にシュヴァルツシルトがアインシュタイン方程式を解き、解を見つけたが、その中には無限大となってしまう奇妙な空間の点(時空特異点と座標特異点)が含まれていた。アインシュタインはその理解に苦しみ、この解は簡略化された仮定のもとに得られたものであったため、「実際にはあり得ない話」と解釈したようである。ブラックホールという言葉が生まれたのは、アインシュタインの没後である。

相対論研究でもっとも貢献したペンローズ

オックスフォード大学のR・ペンローズ教授=1995年10月6日、オックスフォード大の研究室、尾関章撮影
 アインシュタイン以降、相対性理論の研究でもっとも貢献した3名を挙げよ、という問いかけがあったとしよう。相対性理論の研究者なら、答えは「ペンローズ、ペンローズ、ペンローズ」となる。これは研究者間でウケる冗談だが、ある意味本当だ。

 一般相対性理論は、時空を対象とする物理であって、身の回りの現象とはかけ離れた理論であり、1950年代の終わりまでは研究者からも避けられていた。60年代になって、正体不明のクエーサーという天体の存在が報告され、一方で回転している時空でのブラックホール解が発見され、研究が一気に花開くことになる。この「ルネッサンス期」を牽引したのがペンローズである。

 ブラックホールの解には、時空特異点が存在している。特異点(無限大の発散点)が

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