理論家ペンローズの並外れた業績と、「謎」を「実在」に転換させた長年の天文観測
2020年10月13日
物理学賞は、ここのところ、宇宙・素粒子分野と物性物理分野が毎年交互に選ばれてきた。昨年は宇宙分野だったため、私は(他の多くの方と同じように)今年は宇宙以外の分野を想定していた。個人的には光格子時計に期待していて、学生にもその説明を発表の前週にしていたところだ。発表中継をインターネットで見ていて、まず、分野が宇宙だと知って驚き、さらに純粋な理論研究者であるペンローズが受賞したとわかり、想定外の嬉しさを隠せない。ここでは、ペンローズの業績を中心に紹介しながら、ブラックホール研究の歴史を振り返ってみたい。
強い重力場のふるまいを描くのは、アインシュタインの一般相対性理論である。この理論は、重力の正体を「空間のゆがみ」で説明し、時間も空間も絶対的なものではなく、伸びたり縮んだりすることを結論する。理論的な整合性を突き詰めて得られた「アインシュタイン方程式」から導かれることになるのは、ブラックホール・膨張宇宙・重力波の存在といった現象である。しかし、アインシュタイン自身がこの3つのいずれにも当初拒絶反応を示したことは面白い。
一般相対性理論が発表された直後にシュヴァルツシルトがアインシュタイン方程式を解き、解を見つけたが、その中には無限大となってしまう奇妙な空間の点(時空特異点と座標特異点)が含まれていた。アインシュタインはその理解に苦しみ、この解は簡略化された仮定のもとに得られたものであったため、「実際にはあり得ない話」と解釈したようである。ブラックホールという言葉が生まれたのは、アインシュタインの没後である。
一般相対性理論は、時空を対象とする物理であって、身の回りの現象とはかけ離れた理論であり、1950年代の終わりまでは研究者からも避けられていた。60年代になって、正体不明のクエーサーという天体の存在が報告され、一方で回転している時空でのブラックホール解が発見され、研究が一気に花開くことになる。この「ルネッサンス期」を牽引したのがペンローズである。
ブラックホールの解には、時空特異点が存在している。特異点(無限大の発散点)が
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