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学術会議に関するフェイク情報に打ち勝つには?

福島原発事故の主因は「科学者の提言機関」への国の介入だったことを思い起こそう

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 学術会議会員の任命拒否の報道を読んで真っ先に思ったことは「菅首相も自民党も福島原発事故から何も学んでいない」ということだ。というのも、私がみるところ、あの事故の根本原因は、原子力安全委員会(原子力規制庁の前身の一つで科学者の立場から安全性を調べる委員会)が政府によって過度に干渉されたことにあるからだ。

 今回の任命拒否事件では、フェイク情報が大量に流れている。それに対して学術側は「学問の自由」という大風呂敷を広げ、それについて行けない国民を無関心に走らせている。これでは情報戦に勝てない。もっと直接的に問題点を指摘し、それがどのような惨事をもたらしうるかの教訓を語るべきだろう。

 そこで私は、この問題に対し

(1)問題は専門家の立場から国への提言・諌言する機関、すなわち欧州で言う「オンブズマン」への介入である。
(2)過去にこの種の介入が起こした悲劇として、最近では福島原発事故がある。

と答えることにしている。

「津波対策完成まで操業停止」を勧告できなかった原子力安全委員会

拡大東京電力福島第一原発事故後、初めて開催された原子力安全委員会の定例会。右端が班目春樹委員長=2011年4月4日、東京・霞が関、佐藤久恵撮影
 福島原発事故の直接の原因となった大津波が数百年周期で起こり得ることは、貞観地震(869年)を始めとして事故のだいぶ前に報告されていたし、それが東北電力女川原発の立地標高を高くする決め手になった。しかし当時の原子力安全委員会はこれを軽視して、津波対策の勧告が遅れ、勧告後も「対策完成まで操業停止」という伝家の宝刀を抜かなかった。それが「政府の方針」に反したからだ。そこには忖度もあっただろうが、それ以上に安全委が「原発ムラ」の人間で固められていたことが決定的だ。

 原子力安全委員会に懐疑派が入っていれば、対策の勧告をもっと早めに、もっと強く出していたはずだ。しかし自民党の30年以上にわたる「懐疑派排除」の政策で、懐疑を声高に訴えた科学者たちは安全委から閉め出された。つまり「国への提言・諌言する機関」へ長年にわたって政府・自民党が介入したことで、安全委が諌言能力を失って、津波による電源喪失を防げなかったのである。事故はたまたま民主党政権の時に起こったが、過去の自民党の「締め付け」政策が事故の主因であるのは明らかだ。

安全委から懐疑派の閉め出しと同じことを学術全体に行う

 こうして見ると、福島原発事故は東電よりも国の責任が大きい。もちろん東電の責任は追求すべきだが、東電をスケープゴートにしてはいけない。もし、もっと大量の放射性物質が出て(そうならなかったのは数多くの「幸運」が重なったお陰だ)、東京にも住めなくなっていたら、自民党は今よりも厳しく責任を追及されただろう。それを認識していれば、今回のような学術会議の人事への介入はあり得ない。

拡大学術会議の幹事会後に取材に応じる梶田隆章会長=2020年10月3日、東京都港区、石倉徹也撮影

 にもかかわらず「政府に進言するのだから、政府がメンバーを決めるのは当たり前」と菅首相は主張し続け、その発言を自民党が支持し続けている。原子力安全委員会から、原発の安全性に疑問を抱く科学者を閉め出したのと同じことを、今度は学術全体で行おうとしているのだ。

 教訓は原発事故に限らない。最近ではセンター入試の英語試験をめぐる混乱も「諌言能力のある専門家組織」の不在で起こったものだ。戦前に学術界が戦争を防ぐアドバイスを出来なかったのも同じ構図だ。政府にアドバイスをする立場の学術組織が、政府の意向(=国家統制・戦争)に沿ったことしか(内心はともかく、表向きは)言わなくなったことが、太平洋戦争の悲劇を悪化させる一因となった。

 政府の方針に反する提言が出せない機関は、不要どころか、害悪ですらある。危険を安全と勘違いさせ、目先の処方で危機を泥沼化させうるからだ。忌憚なき独立した意見とはそこまで大切であり、政府に「進言」する機関は、政府から干渉を受けてはならない。西欧はそれが分かっているからこそ、オンブズマンという制度を導入している。

日本では理解されていない「自由」と「学問」の意味

 戦前の「政府の言いなりの学術機関」に対する反省を生かした憲法は、第23条に「学問の自由は、これを保障する」と入れた。その心が「学術の立場から政府に提言する機関」への「干渉からの自由」を要求したものなのは明らかだ。

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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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