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ノーベル医学生理学賞の業績には日本の貢献も大きかった

C型肝炎ウイルスの発見と病態の解明に関わった研究者たち

浅井文和 日本医学ジャーナリスト協会会長

 今年のノーベル医学生理学賞が10月5日、発表された。

今年のノーベル医学生理学賞の受賞者。左からオルター氏、ホートン氏、ライス氏=ノーベル財団提供
 C型肝炎ウイルス(HCV)の発見によって、米国立保健研究所(NIH)名誉研究員のハーベイ・オルター氏、カナダ・アルバータ大学教授のマイケル・ホートン氏、米ロックフェラー大学教授のチャールズ・ライス氏が受賞する。

 ノーベル賞では受賞者は3名以内に限られているので日本人の受賞はかなわなかったが、HCVの発見と解明の歴史をたどると日本からの貢献は大きい。ノーベル賞のプレスリリースとともに公表された「科学的背景説明」でも日本人の名前を挙げて業績を紹介している。

 受賞者3氏の業績と日本からの重要な貢献を紹介したい。

A型とB型は70年代までに判明したが……

C型肝炎ウイルス=国立感染症研究所提供
 HCVは肝炎や肝硬変、肝がんを起こすウイルスだ。肝炎になっても最初は自覚症状が少なく、検査をしなければ気付かないまま約20~30年で肝がんへと病気が進んでいく人もいる。

 主な肝炎ウイルスには汚染された水や食物で感染するA型と、血液を介して感染するB型とC型がある。1970年代までにA型とB型のウイルスは判明し、感染防止対策が進んだが、C型のウイルスや検査方法は未発見だった。

 日本では約150万人の感染者・患者がいると言われていた。深刻だったのは輸血を通しての感染による輸血後肝炎。血液成分をもとに作られたフィブリノゲン製剤や血液凝固因子製剤による感染も問題になった。

 HCVの発見によって1989年、日本では世界に先駆けて日本赤十字社血液センターでHCV検査が導入され、安全な輸血に向けた大きな前進になった。

ウイルスの発見から劇的に進展したC型肝炎治療

 治療はHCVの発見以降、段階的に改善されてきた。

 1990年代からインターフェロンという注射薬が使われ、患者の体からウイルスを排除する「完治」を目指す治療が始まった。しかし、最初のうちはウイルス排除の成功率が低く、副作用も多く、患者にとっては苦しい治療だった。成功しない場合には漢方薬や肝臓の働きを改善する薬が使われていた。

 インターフェロンを使わずにすむ飲み薬の抗ウイルス薬が2014年から国内で次々と承認され治療が大きく進んだ。薬の改善によってウイルス排除の成功率が100%近くになり、「完治」が可能になった。

 約30年前までは「非A非B型肝炎」と呼ばれて確実な治療法がなかった未知の病気が、ホートン氏らの発見で「C型肝炎」という病名がつき、予防と検査と治療が可能になり、克服できる病気になった。

 私は1990年から27年間、朝日新聞で医療担当の記者や編集委員などを務めた。まさにC型肝炎の始まりから治療の進展までを取材してきた。1991年と93年にホートン氏が来日したときには記事を書いた。医療記者を続けてきて、これほど劇的な医学の進歩を目にすることは数少ない。まさにノーベル賞にふさわしい業績だと思う。

受賞者の業績はリレーのようにつながった

 受賞した3氏の業績は、リレー競走のようにつながっている。

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