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クマを森から出さないためにやるべきこと

人とクマとの共存には、魅力的な食べ物をなくし、棲み分けを考えていく必要がある

小池伸介 東京農工大学大学院准教授、日本クマネットワーク副代表

 今秋も各地でツキノワグマ(以下、クマ)の人里への出没が相次いだ。中には、温泉街や商業施設の中にまで入り込むクマも出現し、おおいにメディアを賑わせた。しかし、残念ながら、クマとの接触により数名が亡くなられるとともに、多くの方がけがを負ってしまった。ここでは、なぜクマは人里に出没し、どうしたら人との遭遇をなくすことが出来るのか、そしてクマとの共存をどう進めるのかについて考えたい。

なぜ、秋にクマは人里に出没するのか

拡大ミズナラの木に登りドングリを食べるツキノワグマ=横田博さん撮影
 クマは雑食動物であるが、食べ物のほとんどを植物が占める。秋の主食はブナ科の果実、いわゆるドングリである。クマの秋は専門的には食欲亢進期とも呼ばれ、食べたいという欲求が高まる時期である。それは、冬になるとクマは冬眠をして過ごすが、冬眠中のクマは飲まず食わずの状態で過ごすため、必要なエネルギーを秋の間に蓄えなくてはならないからである。そして、その源となるのがドングリである。

 一方、ドングリにはある特徴がある。ドングリは繁殖戦略の一環として、豊作の年と凶作の年を繰り返すとともに、同じ森の中でドングリの実りの程度が同調する。つまり、ドングリが豊作の年には森の多くの木にドングリが実り、凶作の年には森全体からドングリはほとんど姿を消してしまう状況となる。ドングリが少ない年には、クマは食べ物を探すために、春から夏にかけて生活していた場所から遠く離れた場所にまで移動することとなる。しかし、このことだけが必ずしもクマの人里への出没に直結するわけではない。

 基本的にクマは臆病な動物で、人間を避けて行動する。たとえば、森で暮らすクマは昼行性であるが、人里に近づく時は夜行性となる。そういった習性をもつクマにとって、よほどのメリットがない限りはわざわざ森の外へは踏み出さない。それでも、多くのクマが森から出るのには、魅力的な食べ物の存在がある。具体的には、未収穫のカキやクリ、生ごみなどで、クマはそれらに誘われることで人里の中へ入り込んでしまう。

拡大人里に実るカキ。未収穫のまま放置すると、クマを引き寄せる魅力的な食べ物になる=⻄堀岳路撮影
 森から出るクマは、初めは恐る恐る山際のカキなどを食べていたのであろう。しかし、いとも簡単に、美味しい食べ物を得ることができた成功体験は、徐々にクマの行動を大胆にさせ、少しずつ町の中へと新たな食べ物探索に向かわせることとなる。しかし、本来は森の中でひっそりと暮らすクマにとって、人間と遭遇することなど一生に一度あるかないかである。そのため、森から遠く離れた町の中に迷い込んでしまい、人間に囲まれたクマはパニックに陥り、建物の中に入り込み、その場から逃げようとするうちに人間を傷つけることとなるのは想像に難くない。

近づく人間とクマとの距離

 ドングリの結実の豊凶は遠い昔から存在してきたのに、2000年以降になって秋にクマが大量に人里に現れ、駆除される現象が頻発し、近年は常態化してきた。その原因の一つに、

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筆者

小池伸介

小池伸介(こいけ・しんすけ) 東京農工大学大学院准教授、日本クマネットワーク副代表

東京農工大学大学院准教授、日本クマネットワーク副代表。1979年名古屋市生まれ。東京農工大学卒。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における植物―動物間の生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。著書に『クマが樹に登ると』(東海大学出版部)、『わたしのクマ研究』(さ・え・ら書房)、『森と生きる。ツキノワグマのすべて』(文一総合出版)など。

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