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日本は核兵器禁止条約を支援し、核抑止依存から脱却せよ

核兵器が「違法」となる時代が来た

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 ついにこの日が来た。核兵器禁止条約(TPNW)の批准国が50か国に達し、来年1月22日に発効が決定した。核兵器が国際法上「違法」となる時代が来たのである。まさに核兵器廃絶に向けた歴史的な一歩と言って間違いない。長年、核兵器廃絶に献身的努力を重ねてこられた被爆者の方々、被爆都市広島と長崎やICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)などをはじめとした市民社会の努力と情熱がこの条約をもたらしたことに、改めて敬意を表したい。

批准50カ国を祝う集会=2020年10月25日、長崎市、吉本美奈子撮影
 しかし、一方で、核保有国や核の傘に依存する国は、条約に背を向けており、発効したからと言って、すぐに核兵器がなくなるわけではない。長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)では、TPNW発効確定を受けて10月25日に見解を発表した。その見解に基づき、この条約発効の意義と、今後日本政府が取り組むべき課題と方向性について再考してみたい。

「すべての人類の安全保障」というパラダイム転換

 TPNWの前文にこの条約の特徴を示す言葉がある。それは「(核兵器の)危険がすべての人類の安全保障にかかわること」と明記している点である。さらに、「核兵器の被害者(ヒバクシャ)の容認しがたい苦しみ及び被害に留意し」としている点は、この条約が核兵器の「非人道性」に焦点をあて、国家安全保障の立場をこえて「人類の安全保障」の立場に立った条約である、ということを示している。これは、これまでの地雷禁止条約やクラスター弾に関する条約にも共通するものであり、軍縮・軍備管理の条約として、一つの潮流をなすものである。

核兵器禁止条約の来年1月発効を報じる新聞
 この点は、まさに新型コロナ感染症パンデミックが想起させた、安全保障に対する考え方の「パラダイムシフト」と合致する動きともいえる。今回のパンデミックを経験して、軍事安全保障対策では人間の生命を守れない、という体験を多くの市民が共有したのである。今、守るべき本当に大事なものは、「人類の安全保障」であり、国家間がそれぞれの安全保障を守るべく、対立する時代は終わりにしよう、という「パラダイムシフト」が起きてくる可能性がある。それは、このTPNWの趣旨とも合致しているのだ。

 この安全保障に対する考え方のシフトは、核兵器国および核の傘に依存する国々に、大きな圧力となりうる。そして、国際法上「違法」となった核兵器を持ち続けることへの抵抗はますます強くなる。だからこそ、核兵器国はこの条約の発効を恐れていたのだ。報道では、「非核保有国に批准をしないよう圧力をかけていた」(共同通信、10月27日)というが、これはまさに核兵器国の「焦り」が表に出たものといえる。

核不拡散条約(NPT)の補完・相乗効果

 TPNWへの反対意見として、核保有国と非核保有国の対立を深め、NPTを弱体化させる、との批判がある。しかし、そもそもその対立は、NPT第6条に明記されている「核軍縮(将来の核兵器廃絶)に向けての誠実な交渉義務」を核保有国が履行していない、という事実が原因だ。遅々として進まない核軍縮、いや最近では核兵器近代化計画や中距離ミサイル(INF)全廃条約破棄といった、核軍縮に逆行する動きが顕著になってきていることに、非核保有国はついにしびれを切らしたのである。

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