超大質量ブラックホールの存在を周辺ガスの運動から突き止めていた!
2020年11月06日
2020年のノーベル物理学賞は、ブラックホール研究に貢献した欧米の3人に贈られる(論座『「ブラックホール」でまとめたノーベル物理学賞』真貝寿明)。実はブラックホールの存在を示唆する観測では日本人チームが大活躍した。その成果は、今回の受賞者たちより早く発表されている。四半世紀も前に、超大質量ブラックホールに肉薄した日本人がいたのである。ノーベル賞選考委員会に文句を言うつもりはない。ただ、日本チームの研究がいかに大きな意義を持つものだったのか、日本の皆さんにぜひ知っていただきたいと思う。
銀河の中心は特別な場所である。明るく輝いているのだが、そこにあるのは非常に重いブラックホールである。超大質量ブラックホール、Super Massive Black Hole、略してSMBH。ほぼ100%の天文学者が、銀河の中心は「SMBHがある特別な場所」だと信じている。ところが、確証がない。SMBHはブラックなので、見えないからだ。天文学者はなんとかしてSMBHを見つけようと半世紀近く奮闘してきた。
では、どうしたらブラックホールの存在を確認できるだろうか?
SMBHの質量は太陽質量の100万倍から100億倍もある。ところが、小さい。例えば、太陽質量の1億倍でも、半径は3億kmしかない。太陽系に置いてみると、木星軌道の内側にすっぽり入ってしまう。
黒くて小さいものを「見る」のに頼りになるのは「重い」ということだけになる。これを頼りにすると、可能な方法は「力学的に見る」ことである。つまり、次の二つの方法である(下の図1の左と中央)。
(A) ブラックホール周辺の星の運動で見る
(B) ブラックホール周辺のガスの運動で見る
そして、もう一つ、「明るい背景光に浮かぶシルエットとして見る」方法がある(図1右)。
(C) ブラックホール・シャドウを見る
昨年4月、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT:事象の地平線望遠鏡)のチームが、おとめ座銀河団にある巨大楕円銀河M87の中心にあるSMBH(質量は太陽質量の65億倍)をブラックホール・シャドウとして撮影するのに成功し、大きな話題となった。これについての解説は、『巨大ブラックホールの謎』(本間希樹、講談社ブルーバックス、2017年)や『ついに見えたブラックホール:地球サイズの望遠鏡がつかんだ謎』(谷口義明、丸善出版、2020年)で読むことができる。
しかし、オーソドックスな方法は「力学的に見る」ことだ。これはブラックホールの周辺にある星やガスの運動を調べ、ブラックホールがなければ説明できないことを示す方法である。今回のノーベル賞受賞者たちは、天の川銀河(銀河系)の中心部にある「いて座A*」と呼ばれる電波源の周りの星々の運動を長期間にわたって観測し、太陽質量の約400万倍の質量を持つSMBHがあることを突き止めた(ただし、受賞理由は「supermassive compact object=非常に重いコンパクト天体」の発見となっており、ブラックホールという言葉は用いられていない)。
これら二つの成果に先立ち、1990年代初頭に最初に大きな成果をあげたのは、方法(B) による観測だった。それが日本人チームによる研究だったのだ。
開所当時からここに勤務していた中井直正(現・関西学院大学教授)は、この分光器を使って、
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