高山善光(たかやま・ぜんこう) 日本の研究者出版代表、研究者
1987年、福島県郡山市生まれ。哲学・宗教学の分野で博士号を持つ。大学非常勤講師をしつつ、2019年に研究の力で社会を良くすることを目的とした日本の研究者出版を立ち上げる。IT関連の技術・サービスにも興味があり、データサイエンティストとしての顔を持つ。現在は仕事の合間に論文を書いている。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
交通費は500万円!? 一度も一緒に暮らしたことない!? 結婚式でも研究発表!?
こういうとき、おもな選択肢は3つ。研究者をやめるか、外国で研究職を探すか、非常勤講師やアルバイトをしながら粛々と次の応募を待つか、である。さらに、たとえ就職できたとしても、3年で契約終了という状況も増えている。こんな話を聞けば、気を失いそうになる方もいるかもしれない。おそらく同じ研究者同士でも「お前ら、よくそれで結婚したな!」と、つっこみを入れるはずである。だが北野さんの妻によると、そんな欠点を補っても余りある魅力が研究者にはあるらしいので、どうか本書を読んでその雰囲気を感じとってほしい。
そしてこんな状況にもかかわらず、本当に「この世界を良くしよう」との決意を持って研究に打ち込む研究者もいることに着目してほしい。それどころか、この業界に浸りきってしまい、「この制度のいったい何が問題でしょうか?」と、感覚が麻痺してしまった研究者もいる。「こんな罰ゲームをなぜ私が受けるのでしょうか……」と悲観できる研究者は、むしろ現実を見据えることができているのかもしれない。だがそれゆえに疲労もたまっているだろう。時には早く寝るかストロング系の酒でも飲んで、現実逃避することをおすすめする(※くれぐれも飲みすぎには注意を)。
本書からは、研究者の世界を「結婚」という切り口で見ることによって、現在の日本の科学戦略が抱えている問題が見えてくるかもしれない。こんな生活を強いられて、この国の研究力が向上するのか?と疑問にもつ人も出てくるだろう。
ほかにも本書には、大学院在籍中に出産した女子学生や、結婚後に研究をやめるか悩みはじめた男子学生など、駆け出しの研究者からすでに何本も業績を出している中堅まで、さまざまな研究者が登場する。民間企業に勤めていた40代で大学院への進学と結婚を決めたり、結婚式までも研究発表の場にしてしまったり、科学的真理を追究する研究者なのに採用を願って内緒で「おみくじ」にすがったりと、笑いあり感動ありの豊富な話題がそろっている。読みながら追体験した気分になる面白い出来事もいっぱいだ。
笑える話も多かったけど、でもそもそもなんでこんなに苦しい思いをしなければならないのだろう? 科学は社会を本当に幸福にするのだろうか? 豊かな人生とはなんだろう? 愛とはどのようなものなのだろう? 幸せな家庭ってなんだろう? 読み終わったあと、こんな疑問を突き付けられるかもしれない。本書には、研究者でなくても考えさせられる材料がたくさん詰まっている。
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