重視するのは「経済、コロナ、人種差別、気候変動の四つだ」
2020年11月13日
バイデン大統領が誕生する。ある程度予測されたことであったものの、エネルギーや温暖化問題に関わってきた研究者としては、非常に感慨深い。トランプ大統領の「罪状」の一つに、政府文書から温暖化という言葉を抹消させ、オバマ元大統領のエネルギー・温暖化政策をほぼ否定したことがあるからだ。
一方、バイデン新大統領は、選挙公約で、時計の針を元に戻すだけでなく、さらに先を進めることも約束している。そのため、多くの米国の環境NGOも「これまでの大統領候補としては最も野心的かつ急進的なエネルギー・温暖化対策案」と高く評価していた。以下では、そのバイデン案の内容、実現可能性、日本への影響について考える。
バイデン案のポイントは、①2050年に国全体の温室効果ガス排出実質ゼロ、②2035年に電力分野の温室効果ガス排出実質ゼロ、③4年間で2兆ドル(約210兆円)の投資による雇用創出および環境正義の達成、の三つだ。
第1の2050年排出実質ゼロは、10月に日本の菅首相が掲げた目標とほぼ同じである。おそらくバイデン大統領の公約と中国の習近平主席の国連演説(2060年実質ゼロを表明)を意識しつつ菅首相も発表したのだろう。
第2の2035年電力分野での排出実質ゼロというのは、今の日本の環境NGOが日本政府に要求している数字よりも野心的かつ急進的である。なぜなら、日本の環境NGO提案の多くは、2030年に電力分野の再生可能エネルギー割合を40〜50%にするというものだからだ。
第3の大型投資と環境正義は、ここ数年、米国で議論されてきたグリーン・ニューディールの目玉であり、財政拡大や先住民、非白人、貧困者のサポートを重視する民主党の政策に沿っている。
これまで米国での温暖化問題の優先順位は高くなかった。しかし、バイデン大統領は、2020年8月の民主党大統領候補の指名受諾スピーチで、「米国が直面する問題は、経済、コロナ、人種差別、気候変動の四つだ」と明言しており、当選確実となった11月8日に政権移行に向けて設けたウェブサイトでも、この四つを最優先課題としている。
10月のトランプ前大統領とのディベードでも、1回目は、共和党寄りの報道で知られるフォックス・ニュースのアナウンサーでもある司会者が、若者の抗議を受けて当初は入っていなかった温暖化問題を急きょ論点に入れた。2回目のディベートでは、事前に決められた六つの争点のうちの一つに温暖化問題が入っていた。
すなわち、米国での温暖化問題の政治的な優先順位は非常に高くなっており、その背景の一つには、アメリカ全土において森林火災、熱波、ハリケーンなどによる被害が顕著になっていることがある。少なくとも、エネルギーや温暖化問題が国政選挙では争点にならない日本の状況とは大きな違いがある。
この問いに対しては、「必要な政策や投資がなされれば、今の技術レベルである程度は可能であり、うまくやれば国全体での経済や雇用にはプラスになる」というのが、多くの業界関係者や研究者の最大公約数的な答えだろう。
前述のように、バイデンの温暖化政策は、これまで米国で多くのバージョンが出された「グリーン・ニューディール」を踏襲したものであり、巧妙に補助金(アメ)と規制(ムチ)が組み合わされている。また、財源に関しても、化石燃料補助金廃止、大企業・富裕層への課税、炭素税などが想定されている。
もちろん、これらの規制導入や法改正は容易ではなく、バイデン大統領は、急進左派と批判されがちなサンダース上院議員のグリーン・ニューディール案とは、一定の距離を置いていた。
しかし、
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