バイデン大統領でエネルギー・温暖化対策はこうなる!
重視するのは「経済、コロナ、人種差別、気候変動の四つだ」
明日香壽川 東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授
バイデン大統領が誕生する。ある程度予測されたことであったものの、エネルギーや温暖化問題に関わってきた研究者としては、非常に感慨深い。トランプ大統領の「罪状」の一つに、政府文書から温暖化という言葉を抹消させ、オバマ元大統領のエネルギー・温暖化政策をほぼ否定したことがあるからだ。

ホワイトハウス周辺でバイデン氏の勝利を祝う人たち=ワシントン、ランハム裕子撮影
一方、バイデン新大統領は、選挙公約で、時計の針を元に戻すだけでなく、さらに先を進めることも約束している。そのため、多くの米国の環境NGOも「これまでの大統領候補としては最も野心的かつ急進的なエネルギー・温暖化対策案」と高く評価していた。以下では、そのバイデン案の内容、実現可能性、日本への影響について考える。
バイデン氏の公約
バイデン案のポイントは、①2050年に国全体の温室効果ガス排出実質ゼロ、②2035年に電力分野の温室効果ガス排出実質ゼロ、③4年間で2兆ドル(約210兆円)の投資による雇用創出および環境正義の達成、の三つだ。
第1の2050年排出実質ゼロは、10月に日本の菅首相が掲げた目標とほぼ同じである。おそらくバイデン大統領の公約と中国の習近平主席の国連演説(2060年実質ゼロを表明)を意識しつつ菅首相も発表したのだろう。
第2の2035年電力分野での排出実質ゼロというのは、今の日本の環境NGOが日本政府に要求している数字よりも野心的かつ急進的である。なぜなら、日本の環境NGO提案の多くは、2030年に電力分野の再生可能エネルギー割合を40〜50%にするというものだからだ。
第3の大型投資と環境正義は、ここ数年、米国で議論されてきたグリーン・ニューディールの目玉であり、財政拡大や先住民、非白人、貧困者のサポートを重視する民主党の政策に沿っている。