実体のない筋書きへの熱狂は、「トランプ後」の時代に何を残すのか
2020年11月14日
大統領選の「空騒ぎ(Much Ado About Nothing)」。毎度感じることだが、今回はとりわけ異常だった。前代未聞の対立があり、接戦があり、熱狂があった。今それがゆっくりと冷めつつある。投票日から1週間を経た現在、当確を受けてバイデンは勝利を宣言、国民の融和・民主主義の再生を訴え、矢継ぎ早にシグナルを発している。
共和党内部からも「民主主義の制度を破壊するよりは、敗北の受諾を」という動きが出ている。今後よほど大きな「新事実」の開示がない限り、この流れは変わらないだろう。
当初、トランプ支持者は4年前の再現に望みを託した。つまり世論の劣勢を覆す逆転勝利だ。他方、バイデン支持者は地滑り的な大勝、できれば上下院を含めた完全勝利を期待してドラマは始まった。開票の経過を見ると、開始早々に民主党の大勝シナリオは消え、想定外の接戦に。フロリダなど接戦する州をトランプが連取したときには「トランプ有利」の報道さえ出た。だが結局、開票結果が確定すればバイデンが手堅い判定勝ち、という結末となった。
ただ水を差すようだが、この筋書きには実は実体がない。なぜなら投票結果なんて、投票終了の時点で、客観的にはすでに確定していたはずだから。(誰も言わないが)開票はいわば、伏せたカードを時間をかけて順繰りにめくっているだけだ。その順番は各州の開票作業や郵便投票などの諸事情で「たまたま」決まっている。
仮に順番を変えれば、途中の筋書きなどはどうにでも変えられる(そして最終結果だけが、あらゆる意味でリアルであり変えられない)。そういうほぼ架空のドラマを何十時間もぶっ通しで中継し、時々刻々と分析して一喜一憂するなんて、愚の骨頂ではないのか。だが熱狂する米国市民には、そういう疑念のかけらもないらしい。
皮肉な話だが、こうしたドラマと熱狂は、未だに人の手でやっている選挙テクノロジーの未熟のせいだ。遅いし、確認に手間がかかる。州ごとの進度に違いが出る。全米で職場や学校がなかばストップするほどの人気長編ドラマが、そのおかげで成り立っている。
「たぶん技術が進化する10〜15年後には、投票が終了した直後のナノ秒で正確な結果を出せる。そうなったらこんな空騒ぎは成り立たない」。高1の息子にそう話しかけたら、「それじゃ面白くない」と一蹴された。研究室の若手メンバーからも、「Shin、エンタテインメントに難癖つけるな、プロ野球みたいなものだ」とあっさり切り捨てられた。
ならば「お祭り」と割り切って楽しもうとするが、それすらも困難なのは、何が事実であり何が虚偽の情報なのか、ますます掴みにくいからだ。トランプ支持者は、バイデンの息子のウクライナ・スキャンダルや大規模な選挙不正を、文字通りの「事実」としてそのリアリティー(物語)を共有する。バイデン支持者も、立場は逆だが似たり寄ったりだ。まるでふたつの人種が異なる言語を話し、異なるヴァーチャル空間に棲息している感さえある。
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