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バイデン政権で米国の科学技術政策はどう変わるか

ホルドレン元科学技術担当大統領補佐官の講演から

高橋真理子 朝日新聞科学コーディネーター

拡大朝日新聞のインタビューに答えるジョン・ホルドレン氏=2018年3月26日、米国ケンブリッジ、ランハム裕子撮影
 ジョー・バイデン氏が次期大統領になることが確実となって間もない11月10日、オバマ政権で科学技術担当の大統領補佐官を8年務めたジョン・ホルドレン米ハーバード大学教授が日本の政策研究大学院大学(GRIPS)科学技術イノベーション政策研究センター(SciREX)主催のオンライン講演会で講演した。オバマ政権下とトランプ政権下でいかに科学技術に対する政権の立ち位置が変わったか、バイデン政権ではどうなるか。それらを端的に知るため最良のスピーカーによる講演だった。そのエッセンスをお届けする。

オバマ元大統領が実行したこと

拡大政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策研究センターが主催したオンライン講演会のチラシ
 ホルドレン氏は、大統領補佐官であるとともに科学技術政策局(OSTP)局長だった。50人程度の職員を擁するOSTPは、国家安全保障会議(NSC)や国家経済会議(NEC)、予算教書を作る行政管理予算局(OMB)などともに大統領に直属する行政機関で、ホワイトハウスの中にある。OSTP局長は大統領補佐官を兼任し、大統領の意向を直接確かめながら科学技術予算を策定し、科学技術政策全般に関わっていく。

 オバマ元大統領が政権発足後ただちに実行したのは次のようなことだ。

① 5人のノーベル賞学者と全米アカデミーズのメンバー25人を政府の重要ポストに登用。
② 科学者の自由な発言を保障し、政策決定の根拠となる科学的データを公開することをすべての政府機関に要請。
③ 国のさまざまな問題解決には科学技術が重要であるというオバマ大統領の考えを大臣たちに共有させ、すべての大臣に自身の科学アドバイザーを任命するよう要請。
④ ホルドレン氏に、日本を含むもっとも重要な国際パートナーたちとの科学技術協力について再活性化するように指示。

 これらに続き、次のようなことを実行した。

⑤ 連邦政府の研究開発予算を大幅増額。とくに生命科学、クリーンエネルギー、気候科学で顕著。
⑥ 前例のない科学技術プロジェクトをいくつも発進させた。具体的には脳科学、プレシジョン医療(個人ごとに最適化した医療のこと)、先進製造技術、先進コンピューター技術、理数系教育など。
⑦ エネルギー効率をあげる、温室効果ガスを減らす、気候変動対策を進めて途上国を支援する、自然環境を保全するといったことに対し、大統領令や規制を活用。
⑧ (気候変動対策についての多国間協定である)パリ協定の合意に向けて外交努力した。

パリ協定からもWHOからも脱退したトランプ大統領

 では、トランプ大統領はどのように振る舞っただろうか。

(1) 科学技術関連の重要ポストに気候変動否定主義者や科学の素養に欠けるイデオローグを任命し、数少ない例外の人たちもトランプ氏の反科学主義に逆らう言動をしたときに追い出した。
(2) 最初の2年間にわたってOSTP局長を任命せず、大統領補佐官も任命しなかった。
(3) 連邦の研究機関の予算大幅削減を繰り返し提案(その大半は議会によって否決された)。
(4) 移民やビザのルールを変えて外国の学生にとっての米国の大学の魅力および入学しやすさを低減させ、米国で開かれる科学技術関係の国際会議に外国人が参加するのを邪魔した。
(5) パリ協定から脱退を宣言し、これに関するすべての政策(途上国支援も含む)を停止。
(6) オバマ政権によるほとんどすべての気候変動対策と規制をひっくり返した。
(7) Covid-19パンデミック対策で米国政府の公衆衛生当局のアドバイスに対し聞く耳を持たず、世界保健機関(WHO)から脱退。
(8) 連邦政府における「科学に基づいた政策」への変革を妨害。
(9) それまでの政権によって遂行されてきた国際的な科学技術協力プログラムの多くを中断もしくは無視。

 見事なまでにオバマ政権の逆を行ったわけである。

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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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