下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授
カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
両国世論の心理を理解すれば、着地点は見つかる
日韓関係が揺れている。元徴用工への賠償問題で緊迫する中、韓国の国家情報院長や韓日議連会長らが相次いで訪日し、菅義偉首相をはじめ要人と面談した。国家安保室長の訪日も噂されている。文在寅政権としては、突然の歩み寄りだ。賠償金とその補填をめぐる案や、東京五輪を機に融和の機運を高めようという動きなど、いろいろな変化が出た。だが、賠償判決を履行させて関係修復を急ぎたい韓国と、「国際法に照らして解決済み」と突っぱねる日本の間に温度差が大きく、実質は前進していない(時事、11月23日)。
出口なしに見える。韓国世論が欲しているものを与えて文政権が飛びつき、かつ日本も立場を一歩も譲らない——そんな起死回生の策があるだろうか。韓国世論・メディアの心理特性を分析すれば、糸口は見える。
まず何より韓国世論は、「精神勝利」を望んでいることに着目してみたい。事実、金銭については後で補填するとまで提案してきた(朝日新聞、10月31日)。選択的不買運動も、この精神勝利のためだった。「文大統領が菅首相より先にバイデン候補に電話した」「その電話が菅首相より何分長かった」などと大々的に報じる韓国メディアのことだ。この精神勝利という視点はヒントになる。日本側(政府・企業)にとっても、金銭は問題ではなく原則の問題なので、両者ガチンコのままでは交渉にならない。
確かに韓国のやり方や態度には疑問が多い。苦しい体験をした元徴用工たち個人の請求権が消えていないのはその通りだろうが、日本政府および日本企業が払うべき賠償は既に韓国政府が受け取っている。賠償の請求先はなぜ日本になるのか。韓国は日韓請求権協定で決めた仲裁委員会の設置にも応じてないし、2015年の慰安婦問題合意も反古にしている。
そんな経緯のなかで、どんな前進の方法があるのか。筆者が考える秘策を提示しよう。次のメッセージを順繰りに発する。
①まず「韓国側のおっしゃる通り、合意のためには歴史認識が重要」と、首相が明言しよう。