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混迷する日韓関係はこう解決せよ

両国世論の心理を理解すれば、着地点は見つかる

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

②次に、たとえば小渕恵三・金大中の1998年の日韓共同宣言における小渕発言を挙げて、「歴史として確認する」と述べる。(一言も足す必要はない、下記の小渕発言を読み上げて、引用するだけでいい。)

 小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた。
 金大中大統領は、かかる小渕総理大臣の歴史認識の表明を真摯に受けとめ、これを評価すると同時に、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明した。(日韓共同宣言から)

③続けて「わが国はこの歴史事実を重く受け止め、一度なりともそれを軽視したり歪めたりしない決意である」と表明する。(一応注意するが、これは日本国民の総意・本音という趣旨でなくてはならない。)

拡大ソウルの日本大使館前で抗議集会を開く元徴用工らの支援団体=2020年10月30日、鈴木拓也撮影
 さて、これでどうなるか。日本の謝罪に飢えている韓国メディアは、鬼の首を取ったように報道し、世論は精神勝利に熱狂するだろう。対して日本側はこれまでの事実を再確認しただけで、実質は何も譲ってはいない。

 この精神勝利を韓国が得ることによって、韓国世論に何が醸成されるだろうか。「合意の経緯も含めて、歴史的事実を双方が重んじよう。その上で話そう」という日本からのメッセージを、はじめて韓国世論が耳をふさがず素直に聞くことになる。少なくとも「日本は反省していない」「復讐の念だけ」といった批判は下火になる。米大統領選のバイデン候補の勝利で焦っている文政権には、歩み寄りのきっかけと(国内向けの)口実を与える。反日「民主派」の中でも、「そろそろ和解しないと」と考えている現実派が飛びつき、「なんでも反日」という姿勢からは離反するだろう。

 またようやく政権の反日姿勢を批判しはじめた野党・親日派にも、勢いがつく。どの程度の動きになるかは上記の首相発言のインパクトにもよるが、韓国与党が藁にもすがりたい現況下では、この効果はおそらく小さくない。米国および西側世論も「日本の良識」と歓迎し、韓国側の対応を厳しく監視することになる。

日本のかたくなさもコンプレックスの裏返し?

 これに対し、日本人の少なくない数が、こう感じるかもしれない。「大甘だ」「相手の言うなりに精神勝利を与えるのか」と。だがその心理もあえて分析するなら、韓国側のいう通り「報復の心理」という以外にはない。侵略の罪の意識を根にした、優位な側の不安またはコンプレックスだ。実際、日本が歴史事実を丸ごと確認することには、何重ものメリットがある。たとえば①慰安婦・徴用工問題が国際法に鑑みて解決済みであることを韓国世論にも思い出させる②相手がもっとも欲しいものを与える③日本側は現実的な譲歩なく今後の交渉をリードできる、など。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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