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セイヨウミツバチの蜂球はオオスズメバチへの必殺技になるか?

東アジアでの共存の歩みがニホンミツバチに「熱殺蜂球」を与えた!

米山正寛 ナチュラリスト

 秋は厳しい冬を間近に控え、様々な生き物の間でエネルギーの確保をめぐる動きが盛んになる季節だ。蜂の世界を眺めると、ミツバチの巣には冬越しする女王バチと働きバチのために、たくさんの蜂蜜がためられていく。スズメバチの巣では越冬する多数の女王バチを育てるために、多くの餌が必要となる。こうした中で、体が大きく獰猛なスズメバチがミツバチの巣を襲う行動がしばしば観察される。

拡大オオスズメバチ(中央)とニホンミツバチ(左)、セイヨウミツバチ(右)。体格差は歴然としている=小野正人さん提供

蜂球の内部を致死温度以上にして蒸し殺す!

 ニホンミツバチは日本列島の中で、スズメバチの仲間で最大最強のオオスズメバチと暮らしながら、対抗手段を身につけた。オオスズメバチの偵察役が発する「餌場マークフェロモン」を探知すると、自分たちの巣に誘い込むなどして集団で包み込む。そして胸の筋肉をふるわせて、45度とされる致死温度以上の熱にオオスズメバチをさらして蒸し殺す「熱殺蜂球」が、その必殺技だ。玉川大学の小野正人教授らが1995年に報告した。しかも、この蜂球形成へ主に関わるのは、残された寿命の短い「老」働きバチであることも最近になって突き止められた。

拡大オオスズメバチを死に至らしめるニホンミツバチの熱殺蜂球=小野正人さん提供

 熱殺蜂球はスズメバチの仲間が本来分布する東アジアや東南アジアで、ニホンミツバチを含むトウヨウミツバチに特化して発達した対抗手段である。この必殺技を持たないセイヨウミツバチは、オオスズメバチの攻撃を受けると抵抗はするものの、次々とかみ殺されて壊滅状態に陥ってしまう。ニホンミツバチとセイヨウミツバチは、スズメバチへの対応の仕方が大きく異なっている。

セイヨウミツバチがつくる蜂球は?

 小野さんへの取材をもとに、こうした話題を朝日新聞紙上(9月3日付夕刊環境面)で紹介したところ、ちょっと気になる連絡をもらった。「セイヨウミツバチが蜂球を形成してスズメバチに対抗している。スズメバチの死骸も巣箱の前で見つけた。セイヨウミツバチも蜂球でスズメバチをやっつけられるのではないだろうか?」というのだ。連絡して来られたのは、TBSのCSR推進部で働く高橋進さん。同社は建物の屋上でセイヨウミツバチを飼育し、近くの子どもたちに環境教育の場を提供するなどの社会貢献活動をしている(現在は工事のために移設中)。その巣箱の前で一連のできごとを観察したそうだ。

拡大コガタスズメバチを取り囲んで蜂球をつくるセイヨウミツバチ=TBS提供
拡大セイヨウミツバチの巣の前で死んでいたコガタスズメバチ=TBS提供

 撮影できたという映像を見せてもらうと、そこでは巣箱の入り口に飛来したコガタスズメバチを、セイヨウミツバチの働きバチたちが包み込んでいた。

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筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) ナチュラリスト

自然史科学や農林水産技術などへ関心を寄せるナチュラリスト(修行中)。朝日新聞社で科学記者として取材と執筆に当たったほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会「グリーン・パワー」編集長などを務めて2022年春に退社。東北地方に生活の拠点を構えながら、自然との語らいを続けていく。自然豊かな各地へいざなってくれる鉄道のファンでもある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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