東アジアでの共存の歩みがニホンミツバチに「熱殺蜂球」を与えた!
2020年11月26日
秋は厳しい冬を間近に控え、様々な生き物の間でエネルギーの確保をめぐる動きが盛んになる季節だ。蜂の世界を眺めると、ミツバチの巣には冬越しする女王バチと働きバチのために、たくさんの蜂蜜がためられていく。スズメバチの巣では越冬する多数の女王バチを育てるために、多くの餌が必要となる。こうした中で、体が大きく獰猛なスズメバチがミツバチの巣を襲う行動がしばしば観察される。
ニホンミツバチは日本列島の中で、スズメバチの仲間で最大最強のオオスズメバチと暮らしながら、対抗手段を身につけた。オオスズメバチの偵察役が発する「餌場マークフェロモン」を探知すると、自分たちの巣に誘い込むなどして集団で包み込む。そして胸の筋肉をふるわせて、45度とされる致死温度以上の熱にオオスズメバチをさらして蒸し殺す「熱殺蜂球」が、その必殺技だ。玉川大学の小野正人教授らが1995年に報告した。しかも、この蜂球形成へ主に関わるのは、残された寿命の短い「老」働きバチであることも最近になって突き止められた。
熱殺蜂球はスズメバチの仲間が本来分布する東アジアや東南アジアで、ニホンミツバチを含むトウヨウミツバチに特化して発達した対抗手段である。この必殺技を持たないセイヨウミツバチは、オオスズメバチの攻撃を受けると抵抗はするものの、次々とかみ殺されて壊滅状態に陥ってしまう。ニホンミツバチとセイヨウミツバチは、スズメバチへの対応の仕方が大きく異なっている。
小野さんへの取材をもとに、こうした話題を朝日新聞紙上(9月3日付夕刊環境面)で紹介したところ、ちょっと気になる連絡をもらった。「セイヨウミツバチが蜂球を形成してスズメバチに対抗している。スズメバチの死骸も巣箱の前で見つけた。セイヨウミツバチも蜂球でスズメバチをやっつけられるのではないだろうか?」というのだ。連絡して来られたのは、TBSのCSR推進部で働く高橋進さん。同社は建物の屋上でセイヨウミツバチを飼育し、近くの子どもたちに環境教育の場を提供するなどの社会貢献活動をしている(現在は工事のために移設中)。その巣箱の前で一連のできごとを観察したそうだ。
撮影できたという映像を見せてもらうと、そこでは巣箱の入り口に飛来したコガタスズメバチを、セイヨウミツバチの働きバチたちが包み込んでいた。
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